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兵站が最前線での消耗に追いつかないため、物資の欠乏はいつも通りだった。が、戦場の主力兵器となって久しい 『Maneuver Tracer』の交換部品が滞り始めると戦線維持は思うように行かなくなる。嶋田二尉の駆るMTも、電磁荷電粒子エンジンの電極摩耗とプラズマコンバータの不調が相まって、重力制御装置に回す電力が乏しく、ここしばらくは移動形態モードでの戦闘を余儀なくされていた。
火力は維持できているものの、MTのMTたる所以である機動性を活かせないことに苛立ちが募るが、プラズマコンバータが誘爆してしまっては元も子もない。努めて平静であるかのように振る舞い、部下に命令を下し、敵と戦っていたが、僚機が次々と破壊され、レーダーから味方の機影が目に見えて減って行くことに焦りを感じ始めていた。
「隊長、ヤベェのがいる。新型だ。味方がゴリゴリ削られてんのはコイツのせいだ」
嶋田の部下、柴崎三尉からの通信回線が開いた。嶋田は柴崎に状況を訊ねる。
「柴崎、周囲に僚機は? 敵は一機だけか?」
「みんなヤラれちまった。コイツは俺ができるだけ小隊から引き離す。隊長たちはその間に撤退してくれ」
「ムチャをするな、柴崎。立川・横田の防衛ラインは見た通り崩壊しているが、まだ撤退命令が出ていない以上、お前が時間を稼いだところで大局は変わらん。すぐにソイツから距離を取って小隊へ戻れ」
負け戦で落とす生命ほどムダなものはない。嶋田は柴崎を捕捉している機体を識別するため、データの照会を行ったが、それは徒労に終わった。
機体の識別コードは『識別不能』。僚機を次々とスクラップへと変えた、敵の新型MT。温・湿度調整機能があるにも関わらず、耐圧服の内側がじっとりと汗ばむが、嶋田はその不快感に構わず移動司令部への回線を繋げる。
「こちら嶋田小隊。敵新型MTと会敵。清水、コイツの識別コードと諸元データを持ってないか?」
移動司令部にいるはずのオペレータ、清水三曹に問い合わせたが返答はなく、少しの間があって嶋田には見知った人物が通信を引き取った。
「嶋田二尉、聴こえるか? 山中一佐より指揮を委譲された嶋田三佐だ。山中一佐は第四陸上機動大隊移動司令部の消滅と共に戦死された。清水三曹も所在不明だ。立川と横田基地を強襲して来た民協軍勢力の大半を削いだものの防衛ラインが崩壊、移動司令部が消滅したため、我が第四機動大隊は残存兵力を結集させて入間基地へ向け撤退中である。申し訳ないが二尉の小隊には、大隊離脱まで敵残存兵力の掃討戦を命ずる」
味方を生かすために死ね、という命令だった。嶋田はその命令に狼狽えることなく冷静な声色で返答する。
「こちら嶋田二尉。殿軍、承諾した。全軍撤退まで、できる限り敵をそちらへは行かせないように努めるが、敵新型MTに味方が続々と撃破されつつある。本小隊も彼らのあとを追う可能性もあり、ご期待に添えぬ場合はなにとぞご容赦願いたい」
「すまん、晶。武運を祈る」
増援は期待できない状況となったが、嘆いていてもどうにもならない。敵の追撃を阻止するため、嶋田は小隊をどう配置するか、思案を巡らせていた。
「クッソ! コイツのコンバータは息切れなしかよ! レイブレードの出力がケタ違いだ」
新型とやり合っている柴崎の通信に、装甲が溶けて弾け飛ぶ音や、内部機構が砕かれ軋む雑音が混じっていた。
「柴崎、大丈夫か? 被害状況を。小野寺、柴崎の援護に行けそうか?」
少しの接続時間のあと、小野寺と呼ばれた部下が返事をした。
「今、向かってるッス……けど、寸胴鍋からのお誘いがしつこくて、振り切るのに時間がかかりそうッス」
続けて柴崎が自機の被害状況を報告する。通信には甲高い破裂音や回路が焼き切れるノイズと、緊急脱出警告音が混じっていて声を聞き取りづらくなっている。
「こちら柴崎。右腕を飛ばされた上に、コクピット脇もぶった斬られた。コンバータが絶賛沸騰中、そろそろ圧力鍋のフタがぶっ飛びそうだ。隊長、小野寺、すまねえがコイツを道連れに先に逝くぜ」
「バカいうな! 機体を棄却してもいい、速やかに脱出しろ。小野寺がお前の救出に向かってる」
嶋田がそう命じたのも束の間、柴崎の通信に叫び声と爆音とが混じる中、唐突に音声が途切れた。柴崎機のいた方向で、プラズマコンバータの誘爆による巨大な球体の爆発と光が発せられる。新型も誘爆に巻き込まれているようで、レーダーから柴崎機と敵影が消えた。
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