首脳会談

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「総理。差し出がましいとは存じますが、関東圏の一部などは差し出して西日本の奪還を優先した方がよいのではないですか? 関東圏であれば連中の補給路は断絶されたも同然です。現に民協は北陸地方の占拠を諦めたワケで、結局占領したものの放棄せざるを得なかったのです。ここは国のメンツは捨てて、実効支配できる国土を取り戻すことが肝要ではないかと……」 「私もそう思う。だが、総安保連合はそう捉えてはいない。日本の首都は東京である、というその事実に捉われているんだ。歴史的な背景は全く無視して、な。特にアメリカはいつでも千年以上も前の太平洋戦争を持ち出して来る。戦争へ踏み切らせ、自国を襲わせたのは、総安保連合のみならず他の国も周知の事実のハズなのだが、それでもなお、我々はその枷を外されることはない。今の構図ではそれを覆すことはムリだろうしな……最悪、西日本を明け渡してでも関東圏は死守せねばならん」 「それはわかりますが、現実として我が国はそのどっちつかずの体制を保ったが故に自国の領土を失ったのです。狭い日本ではありますが、西日本を失ったことでアメリカも少なからず影響を被っているのですから、我々の意向を示すことが(はばか)られる事態ではないのも事実です」 「官房長官の見解はわかる……が、ムチャだとはいわんが、千年前の敗戦はその序列を決定づけた。その歴史は覆すことはできない。主権が在るようでない国……ドイツやイタリアと違って我々はいわばアメリカの属国なのだ。彼らのいうことに我々は『NO』とはいえん。もちろん守口くんの意見も至って正論だとは思う。日本が真の意味で主権国家となるには、あと何千年かかるのだろうか……」 「いろいろと申し上げてなんですが、今は結束のときです。この難局を乗り越えれば、我々日本の、本当の意味での主権回復ができるハズです。そう信じるしか今は道がありません」 「そう……だな。そのためにも、自衛隊には今は煮湯を飲ませざるを得ない」  川内は自身でも相当酷いことをいっている自覚があった。国同士のメンツを保つためだけに戦地や被害地域へ自衛隊を送り出さねばならない決定でも、彼らは粛々と任務をこなすだろう、と。  それが使命であるが故に。 「全く、酷い任務を命じることになるとはな……それでも彼らにはやってもらわねばならん。国を護り、国民を救うことは彼らにしかできないことだからな」 「……遺憾ながら……同感です。こういうときは本当に政府は無力であると実感しますね」  こう話す守口は、不意に去来した苦い記憶が脳裡を(よぎ)り、思わず眉間に深いシワを寄せる。自身の胸へ突き刺さるような痛みが走った。
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