停戦協定

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「停戦協定……か。今回はどの程度継続するかな?」  誰とはなしに呟いた嶋田に、三鷹がちらと背後を振り返り、答えを返す。 「今回の戦闘ではお互い兵力を相当消耗したからな。パイロットの育成には時間が要るし、兵器の増産や部隊再編も含めて半年くらいは続くんじゃないだろうか」 「半年か……それまでに立川〜横田の防衛ラインを立て直せるだろうか」 「基地への強襲を許したのは、お偉いさん方にとっちゃ痛恨の極みだったろうな。まさか敵勢力のど真ん中へエアボーンとは、意表を突くという意味で民協軍側の思惑はある程度成功したともいえる。停戦協定の枝葉によっては、立川と横田が中立地帯になって睨み合いになるかも知れん」 「なるほど、ね。むしろ民協軍はそれを狙っていたのかも知れない、ということか……」 「まっ、それ以前にそもそもオレたち空自がなにやってんだって話しにもなるワケだけどな」  そう宣った三鷹は少しも悪びれる様子もなく、カカカと笑った。嶋田もその調子に合わせることで、いくらか気分が軽くなるのを感じていた。 「ははっ、それについては今の編成を遺した先人たちが悪い。空挺部隊の想定なんて何百年も前にその概念すらなくなっていたんだ。一曹たちのせいじゃない」 「そういってもらえるとありがたいね。それはそうと、嶋田二尉。敵の新型とやり合ったんだって?」  嶋田は俯き、敵新型MTとの戦闘を振り返りながら訥々(とつとつ)と話し始めた。 「アイツらは、明らかにムチャな機動で接近戦を挑んで来た。多分、姿勢制御を手動で行っていたと思う。まるで死をも厭わない、そんな感じだった。それとプラズマコンバータの出力が異常に高かった。あんな距離からレイブレードを飛ばして来るとは思わなかった。機体の記録と追従ドローンの映像を見てくれたら、その異常さがわかってもらえるハズだ。記録の終端から三分ほど前からかな」  三鷹は件の新型機への興味を抑え切れず、格納庫に接続されている嶋田機からの映像記録を輸送機のコンソールへと転送した。しばらく映像を食い入るように眺めていた三鷹が声を発する。 「へェ……二尉のいう通り、こりゃメチャクチャだな。こんな戦い方をするなんて、アイツら、よっぽど差し迫った状況だったんだろうか?」 「向こうの状況はわからないが、新型二機はいずれも単騎で突っ込んで来た。柴崎をやったヤツは、プラズマ誘爆に巻き込まれた。もし二機が連携して同時に襲って来ていたら……わたしも無事では済まなかっただろう」 「我が総安保連合軍のエースがそういうのなら、由々しき問題かも知れんな」 「エースだなんて……冗談にもほどがある。柴崎と小野寺を死なせてしまった……ロクでもない小隊長だ……」 「おっと、こりゃすまなかった。だがあんまり自分を追い込み過ぎんなよ。保冷庫に冷やっこいのがある、遠慮せずに好きなものを飲んでくれ」  大瀧が慌てたように保冷庫へと向かい、振り返って嶋田に訊ねる。 「隊長はなにをお飲みになりますか?」 「アルコール以外ならなんでもいいが、できればブラックコーヒーがいい」 「ありました! はい、どうぞ」 「ありがとう」  大瀧から手渡されたボトルを見つめ、嶋田は小さく礼を述べたあと、フタを開いて中身を煽った。
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