万引き

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万引き

 田村綾香の実家は田舎で洋品店を営んでいた。  最初は父母が行商で商いをして、綾香の姉が生まれる頃には店を借りて商売を始め、綾香が生まれる頃には商売は軌道に乗って、店のスペースも広く借りて商売をするようになっていた。  綾香が小学校5年生の時には借家ではなく、自分で土地を手に入れ、本当の自分の店を作った。  その店舗は広かったが、田舎の事なので、扱う商品も多かった。  まず、中学校のジャージも扱っていたのでその在庫スペース。  日用品のエプロンや、農作業に使う帽子や手甲。ヤッケ。  下着も結構な場所をとる。これはグンゼの商品棚を開店の時に買い入れて、そこに並べていた。  そして、ソックスも結構な場所をとる。東京での仕入れの時にはいっぺんに200足は仕入れるのだ。そのほかに地方問屋が店に回ってきたときも120足は仕入れる。    そういった日用品を入り口付近に並べて忙しいお客様もすぐに買えるように工夫してあった。  後はその頃、綾香の町には他になかったちょっとおしゃれな洋服。  かといって、ブティックほどではなく、田舎のおばちゃんがちょっとお出かけの時に着られるようなブラウスやカーディガン、スラックス。コート。  それと一緒に持てるようなバッグや帽子。  そういったちょっと値の張るもので、ゆっくりと試着しながら選びたいお客様用の商品はレジからは真直ぐみられるが、入り口からは一番奥の方にあった。  お年寄りが好んで履く丸ゴムのスラックスもよく出る商品だったので、それもたくさん並んでいた。  更衣室はその頃空いていた店の隅の、二階にスナックを課していた階段下の場所を使ったので、レジからは目の届かないところにあった。  普段はお客様の相手をしながら更衣室に案内するのだが、何度も着替えるお客様だと、別のお客様のレジ打ちをする時など、その場を離れてしまう。  なんと、そういうタイミングで大分万引きをされていたようだ。  店の試着用の服を着て、その上から自分の服を着て、さも、試着用の服は返したようなふりをして、 「またくるわ」  と、帰っていく。  その頃はおしゃれものも一点買いではなく問屋から全サイズ一色ずつ。みたいな買い方をしていたので、店をやっている母や店員さんも気づかなかった。
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