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「それでは、個々の恩賞を申し渡す。」
将軍の退席を見届け、教貫が声を上げた。
まず最初に名を呼ばれたのが巴。彼女には金五十がその場で与えられた。
金の受け渡しはその場で・・それは後の者達も同じだった。
次によばれたのは紅蓮坊。彼は金二十を手にした。
源三の名は呼ばれず、御庭廻組二番隊の報奨は二人だけであった。
「兵衛は・・・あいつも走り回って鬼を退治していたぞ。」
紅蓮坊は巴に聞こえる様に言った。
「遼河もだよ。
あの子は我々の宝物をよく護った。」
かえでか・・・紅蓮坊の声に巴が頷いた。
「静かに。」
その二人を教貫は睨み付けた。
「続いて一番隊。」
続けて教貫は声を上げた。
「鬼木元治(おにきもとはる)。」
よばれた元治は階上にあがった。
「その方の活躍も大。
よって金十五を与える。」
元治はそれを受け取り、懐にしまった。
「ところで例の件は・・・」
教貫は少し声を落として元治に尋ねた。
「昨日も申した通り、拙者の任ではございませぬ。」
そうか・・と教貫は仕方なさそうに元治を庭に返した。
菊池主水の介、国立京ノ介はそれぞれ金十ずつが与えられ、階下に降りた。
「京見廻組局長安藤宗重。」
呼ばれて宗重は立ち上がり、階上に歩もうとした。
だがそれを教貫は手で止めた。
「その方等は約定を破り、先に鬼塚に手を出した。それによりあの混乱を招いた。」
立ち上がった宗重はその場で硬直した。
「だが、その後隊士は身命をなげうち働いた。
よって、京見廻組には金十を授ける。
隊士の労をねぎらうように。」
「近衛組には将軍様より直々に恩賞が与えられる。」
それで個人の報奨は終わり、各隊に当て報奨金が与えられた。
御庭廻組一番隊には金五十。その中で死亡した村田善六の家族には特別に金五十が授けられるとの沙汰があった。
二番隊には金百・・それを皆で分ける。
晴海殿、これは隊士の分である。その方はここの分け前を取るなよ・・・そう言って教貫はにやりと笑った。
京見廻組は先程のまま・・そこで論功勲章は終わり、源三には後ほど言い渡す事があると締め、教貫は席を立とうとした。
「待っておじゃれ。」
その場に中御門経衡の声が響いた。
その後ろには身を縮めた奥村左内の姿もあった。
「麻呂達には恩賞はないのかの。」
経衡も手柄の押し売りに現れていた。
それを恥と思うのか左内は苦い顔をしている。
「麻呂等は内裏を守り抜いた。
しかもここに居る左内は、当初鬼塚に向かいそこが破られると内裏に戻って麻呂と共に鬼吾なる鬼を討った。
そこからすぐにとって返し、御所に走った。
そこから先は麻呂は見ていないが、話しにきけば北門に逆寄せしてそこを制圧し、西侍所の庭まで迫ったと聞いておじゃる。
今回の件、左内の働きもなかなかのものと思うが・・どうお考えでおじゃるかの。」
左内は自身の手柄を言われては居たが、面はゆい思いをしていた。
「当然、左内にはそれなりの褒美を頂きたい。
また、かように護皇隊も働いておる。」
経衡は後の言葉に力を置いた。
「護皇隊は僧兵を雇っておる。
その給金の内の三分の一は麻呂が身銭を切っておる。
それを考えて頂きたい。」
経衡は教貫の面に顔を近づけてにやりと笑った。
「それは後ほど・・・・
上様とも相談して・・・」
教貫は自分より遥かに目上の者の脅しとも取れる行動にどぎまぎと大いに戸惑った。
「色よい返事をお待ちしておる。」
経衡はその顔に大声を投げかけた。
それでは・・・教貫は席を立ちかけた。
「ちょっと待ってくれ。」
今度は紅蓮坊が声を上げた。
「我等二番隊はまだ今年の俸給を貰っていないが。」
「それは晴海が直接渡すと言って持っているはずだが・・・」
そう言葉を残して教貫はその場を立った。
後を渡された晴海は席も立てず泳ぐ目の後ろから、
「お前達がいつも集まっている飯屋に雉に持ってやらせる。」
そう言葉を残し、晴海は逃げるようにその場を去った。
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