闘い終わって

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 巴達五人は姉小路公磨(あねがこうじきみまろ)の屋敷を目指した。  そこは落ちぶれた公家の破(や)れ屋敷だった。  「源三様の・・・」  そこの主人は公家には似合わず、卑屈に頭を下げた。  源三様は・・・兵衛がその公家に尋ねた。  未だ・・・また、そこの主人は頭を下げ、こちらへ・・と五人を奥の座敷に案内した。  「待たせましたな。」  暫くするとそう声を駆けながら源三がその部屋に入ってきた。  「雉殿から飯屋には来るなと連絡がありましたが、何か・・・」  「まあ色々と・・・」  紅蓮坊がばつが悪そうに応えた。  「ところで源三様の御用事とは・・・」  横からの巴の声がそれを救った。  「ああ、その事ですか。  私が一番隊の隊長を任じられました。  教貫様は当初鬼木元治殿を推したようですが、何が何でも、とあの方が固辞され、仕方なしに私に話が回って参りました。」  「一番隊ですか・・・  まだお聞きしたい事もありましたのに・・・」  巴はがっかりしたように言った。  「ははは・・そのような事ですか。  私は今までも御庭廻組の隊員でもなく、それでありながら皆様とは親しくさせて頂きました。それはこれからも変わりませんよ。」  しかし・・・巴はまだ何か言おうとした。  「心配ない。  小平次は公には私の孫として連れて来ておる。山科にはその孫に会いに行くという口実で、月に三度は行ける。それを私が小平次に伝え、小平次があなた方に伝える。  それでいかがですかの。」  巴はそれで納得した。  「私はそうはいきません。」  今度は兵衛の声。  「私はなるべく皆とは離れようとしています。そうなれば源三様の話は聞けない。」  「私は一番隊の隊長を受任いたしました。  私の知識はあなた方だけのものではありません・・当然一番隊にも分け与えなければなりません。その為、月に二度、塾を開きます。  あなたはお役人の出だからか、今までも毎日詰め所に出仕していました。それ故、私の塾に顔を出しても誰も奇異には思わないでしょう。」  そうか・・・紅蓮坊が大きく手を打った。  「ならば後は金子の分配だな。」  そう言って担いできた金袋をそこで拡げようとした。  「その話には私も加えて貰いますよ。」  何時そこに来たのか雉の声がその中に混ざった。  「もう来たのか・・・後の始末は。」  紅蓮坊は驚いたように声を上げた。  「後は私の手下が片付けています。  どうやるかは聞かぬが花でしょう。」  巴はその言葉に少し嫌な顔をした。  「あなた方は嫌うかも知れませんが、根は断たねばなりません。」  雉は何とゆう事ない様に言った。  「で、分け前ですが・・・」  雉はそこに置いてある金袋を見た。  「私はその中から金子十を頂きます。」  「それだけでいいのか。  源三様も含めて、我等六人。一人あたり金貨十六にはなるぞ。」  紅蓮坊の声は相変わらず大きい。  「今回の騒動・・私は晴海様を護るだけでで何もしておりません。  それだけ頂ければ充分。」  「私もいりませんぞ。」  紅蓮坊の後ろから源三の声も聞こえる。  なぜ・・紅蓮坊が振り向く。  「私は今回は御庭廻隊の隊員ではありません。  その金貨百は二番隊への恩賞。  それはあなた方で分けてください。」  となると・・・紅蓮坊は指を折りながら計算を始めた。  「金九十を四人・・一人、二十とちょっとだよ。」  巴がその姿に半笑いで声を掛けた。  「お前少なすぎはしないか。」  それを聞いて紅蓮坊は雉を見た。  「十で結構です・・但し残りの金の中から金貨三を頂きたい。」  なぜ・・・巴が問うた。  「あの飯屋に迷惑料を渡したい。」  「あなたはあの後、何を・・・」  巴が雉を見る。  「先ほども言ったように、まあ、聞かぬが花でしょう。  後片付けは致しましたが、店には多大な迷惑を掛けました。  その迷惑料が金三という事で・・・」  雉は大きく腰を折った。。  「金貨五を持って行って貰おう。  皆もそれでいいか。」  兵衛が代表していい、他の者達は皆頷いた。  それでは・・・との声を残して雉はその場を去った。
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