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悪夢
目を開けると、薄汚れてひび割れたコンクリートの天井が、ぼやけて映った。
『ポトン』
『ピチャ』
ひび割れた天井から水滴が、規則正しく落下して来る。
僕は手足を少し動かしてみた。
痛みも痺れも無い。
ここは何処だ?
仰向けの状態で、首をゆっくり左右に倒して回りを見渡す。
左側に古びた鉄格子の窓が見えた。
窓から淡い月の光りが室内に射し込んでいる。
鉄格子があるという事は牢獄か?
僕は記憶を巡らす。
……確か、仕事が終わり居酒屋で一杯引っ掛けて、ほろ酔い気分で裏道を歩いて家へ帰る途中で、若い女性がビラを配っていたのに遭遇した。
僕は、ビラやテッシュなどは滅多に貰わない。
雨の日はテッシュを貰う事はあるが……
僕は無視して通り過ぎようとした。
『あっ!』
何かにつまづいて僕は、前のめりに倒れた。
『危ない!』
女が突然、叫んだ。
知らない女に急に、抱き抱えられた。
亜麻色の髪から、ぷーんとソープの香りがした。
そこまでは記憶がある。
……何故、僕はこんな所に監禁されているんだ。
まるで頭の中に靄が掛かったみたいだ。
あっ! そうか。
僕も馬鹿だなぁ……これは夢だ!
『クックック』
急に笑いが込み上げて来て僕は、笑いだした。
『ドカッ』
『痛い』
僕は思わず声を荒げた。
若い女が、俺を見下ろしている。
見た事のある女だが、思い出せない。
「お前は誰だ? 何故に僕を監禁するんだ!」
「本当に私が誰か、分からないのか?
それなら思い出させてあげよう」
ロングヘアーの若い女が呟いた。
女はスマホを取り出し、録音の再生ボタンのスイッチをいれた。
『白線の内側までお下がり下さい』
駅構内のアナウンスが、ざわめき声の中に聞こえた。
『すみません。不愉快な思いをさせてしまって、これからは痴漢行為はしません』
『常習犯には見えないから、許してあげるわ。
名刺を頂戴』
あっ、思いだした。
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