悪夢

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 あの日は朝から、粉雪が舞い散る寒い日だったな。  僕は休みの日だったが、同僚がコロナに感染して休みになったので、代わりに出勤する事になったのだ。  早出の為に、7時に家を出て7時30分の中央線に乗った。  車内は学生やサラリーマンで、身動き出来ないほど混雑していた。  立川駅で、押し出されるようにして降りた。  その直後、見知らぬ女に突然、左手首をぎゅっと掴まれた。  僕は、その女の手首を右手で強引に引き剥がし、無我夢中で階段を駆け上った。  そして後ろをチラッと振り返る。  女の姿は見えない。  心臓がバクバク踊っている。    『ふぅ』  僕は安心して、深い深呼吸をした。  痴漢冤罪の場合は、その場から逃げると言う記事をスマホで読んでいた直後だったので咄嗟に、身体が反応したのかも知れない。  「ご苦労様」  『えっ』  僕はビックリして正面を向いた。  さっき僕の手首を掴んでいた女が、ニヤニヤしながら僕を見詰めている。  その女はニットの帽子を目深に被(かぶ)っていた。
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