3 アメシスト

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いつも、俺がどれだけ目で追っ掛けても、気にする素振りを見せない子。鞠ちゃんの顔が見たくて、鞠ちゃんが移動教室の度に廊下で待ち伏せした俺は、重度のストーカーかもしれない。 『アイジン、お前マジキメぇよ?』 『うっせ』 『お、来たぞアイジン!今日こそ話かけろよ』 『·····』 今日も、顔色一つ変えず、目の前を通っていく。 俺に見せるのは、横顔だけ。 真っ直ぐ前を見据える瞳は先を見ていて、傍らで空気を汚す俺なんか、全く気にしない。 小さな足音を鳴らして、背中は直ぐに離れていく。 ···ただ、 『今日こそは話かけろよ!』 『·····』 あの日から。 少しだけ目を合わせてくれる。 それがどれだけ嬉しい事か。ほんの一瞬、一秒にも満たない交流だけど、俺はそれが凄く嬉しかった。 人は欲張りになる。 何ヶ月も見てるから知ってる。
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