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離れた距離で合わさった視線は、以前のように一瞬で逸らされる事は無い。
数度の瞬きを置いて、彼は隠れるようにポケットに入れていた右手を、ひらりとお腹の辺りで振ってみたりする。
そうして少しだけ、顔を逸らして笑うんだ。
「っ、」
『なぁに笑ってんだよ!アイジン』
『笑ってねぇよ』
『笑ってたね!俺は見た!』
『キモ。』
『なになに?水岸は見たぞの?』
『····なんだそれ』
良く分からない藍仁志貴。
雲みたいで掴みづらい、アイジン。
"考えて"と言われた後、結局一ヶ月近くしっかり観察するだけで、返事をすること無く。その後立て続けに連休、テストがあって返事をすっかり忘れていた。
あの日と同じ廊下。
同じように二の腕を掴んだ彼に『今更断らねぇよな?』と脅されたのを機に、私達の奇妙なお付き合いが始まった。
付き合うといっても、普通の恋人同士がするようなデートやLINEのやり取りを私達はしない。電話もしないし、お昼にお弁当を一緒に食べる事も、登下校もしない。
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