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5 アメシスト
悶々としながら家に帰って夕飯の支度を始めていると、ガチャりと玄関の音がして志貴が入ってくる。靴を脱ぎ揃える為に丸まった背中は、もうすっかり見慣れてしまった。
志貴が顔を上げる。
学校より近い距離で絡む視線と、相変わらず綺麗な二重瞼は、何度見ても慣れる事は無い。
イケメンは三日で飽きるっていうけど、私はまだ飽きられそうに無いみたいだ。
「おかえり」
「ただいま、ね」
「鞠ちゃんも今帰ってきたとこ?」
「うん」
「じゃあやっぱ、おかえり」
「…ただいま」
一人暮らしの私の部屋に住み着いた志貴は、ドサりと鞄を床に落としてキッチンに立つ私の隣に来る。ジャーと手を洗いながら「今日の飯なに?」って。
今日の志貴はいつもの匂いに混じって、グラウンドの土埃の香りがした。
「寒くなってきたから、シチューとコロッケ」
「美味そ」
「座ってて良いよ」
「…んー、」
トントンと食材を刻む私の隣から志貴は動かない。
じっと私を見下げてくるから、手を止めて志貴を見上げれば目が合う。…なんだろ。
「髪邪魔そう」
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