5 アメシスト

1/10
前へ
/30ページ
次へ

5 アメシスト

悶々としながら家に帰って夕飯の支度を始めていると、ガチャりと玄関の音がして志貴が入ってくる。靴を脱ぎ揃える為に丸まった背中は、もうすっかり見慣れてしまった。 志貴が顔を上げる。 学校より近い距離で絡む視線と、相変わらず綺麗な二重瞼は、何度見ても慣れる事は無い。 イケメンは三日で飽きるっていうけど、私はまだ飽きられそうに無いみたいだ。 「おかえり」 「ただいま、ね」 「鞠ちゃんも今帰ってきたとこ?」 「うん」 「じゃあやっぱ、おかえり」 「…ただいま」 一人暮らしの私の部屋に住み着いた志貴は、ドサりと鞄を床に落としてキッチンに立つ私の隣に来る。ジャーと手を洗いながら「今日の飯なに?」って。 今日の志貴はいつもの匂いに混じって、グラウンドの土埃の香りがした。 「寒くなってきたから、シチューとコロッケ」 「美味そ」 「座ってて良いよ」 「…んー、」 トントンと食材を刻む私の隣から志貴は動かない。 じっと私を見下げてくるから、手を止めて志貴を見上げれば目が合う。…なんだろ。 「髪邪魔そう」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加