犬、困惑する

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 ことの始まりは一月ほど前である。皇帝であるウォーレンは、うっかり屋の宮廷魔法使いによって、週末だけ犬になる魔法をかけられてしまったのだ。 「かわいいでちゅねえ、ワンちゃん♡」 ――かわいいでちゅねえ!? カレン、お前がそんな言葉遣いになるなんて!  白いモフモフの犬になったウォーレンは、眼を白黒させる。  皇后としてウォーレンの隣に立つカレンは、いつも鉄壁の無表情。どんな瞬間でも、一ミリの隙も与えないほどのポーカーフェイスなのだ。――いや、ポーカーフェイスだったのだ。 ――犬にはそんなに笑ってくれるのか、カレン!? 俺にはこの三年、まったく笑いかけてくれなかったというのに!  ウォーレンにとっては、カレンがこんなに無邪気に笑うこと自体が衝撃だった。無邪気な上にデレデレである。 「ああ、本当に可愛いわぁ。なんてフワフワでモフモフなの! それにこの肉球! プニプニだわ!」  唖然としたまま宙に浮いていた前脚を、カレンは包み込むように握り、ピンク色の肉球を触った。ウォーレンとカレンは夫婦だが、冷え切った関係のため、手をつないだのは三年前の結婚式以来である。
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