2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
ピンポ~ン♪
インターホンのモニター画面に映る人影は、青いポロシャツを着ている。いつもの宅配便業者だった。
「お届けものです」
「あ…は〜い」
玄関ドアを開ける。ポロシャツのブルーが目に飛び込んできた。
あっ……
そこに居たのは、いつものオジサンじゃなかった。
「こんにちは」
ワォ!
目の前にいたのは、爽やかな男子。
「こ、こんにちは…」
私の声のトーンとテンションが、いつもより少し上がっているのが自分でも分かった。
「お届けものです、これ」
そう言いながら、爽やか男子が荷物を差し出す。
「ちょっと重いですけど」
「おもい?」
一瞬、言葉の意味が分からなくなる。耳で聞こえていた ”重い” という言葉が、頭の中で ”想い” に変換されていた。
「はい重いです……ちょっと、ね」
そっと私の両手に手渡された荷物。ちょっと、と言いながら、彼はまだ、両手で荷物を支えている。それが彼の優しさだと、私にはすぐに分かった。
キュン……
なんかゴメンなさい。仕事中なのに、勝手にキュンとしちゃって。
なんて言ったらいいのだろう、これ。急に恋が落ちてきた……そう、恋に落ちたじゃなくて、落ちてきたんだ、恋が。
こんな経験は初めてだった。
そして彼は少しずつ、荷物を持つ力を抜いて行く。それはそれは優しく、あくまでもユックリと。そして……
ズシリ。百パーセント伝わってきた。彼の想いが……あ、違う違う、荷物の重みが。
「重いでしょう?」
「あ、はい。何ですか、これ?」
「僕、配送だけの担当なので、荷物の中身までは…」
「あ、そうですよね。ごめんなさい、私…」
「あ、でもここに商品名が…」
そこには小さく内容物の品名が記されていた。ひとめぼれ、2kg入りと。
「お米、ですかね…」
嬉しそうに、彼が微笑んだ。そして「ありがとうございました」という言葉だけを残して、去って行った。
同じく私も「ありがとうございました」という言葉で、彼を見送っていた。
今度、いつ会えますか…… 口から出かかったその言葉。でもさすがにそれは、呑み込んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!