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【第三章 オリヴァー誘惑作戦】祖父母訪問
「オリヴァー様、起きて下さいまし……オリヴァー様」
爽やかな夏の陽が差すゲストルームで、シャーロットの澄んだソプラノが響く。時はもう昼に近い。大きな天蓋付きのベッドには、上半身裸のオリヴァーと、シルクの夜着を纏ったシャーロットが並んで毛布にくるまっている。
ここはブランドン公爵領にある、オリヴァーの祖父母の屋敷である。二人は正式な婚約を交わし、その挨拶として昨日から祖父母の元を訪れていた。
未来の夫婦が利用している客間は、歴史を感じさせる内装で、重厚感があり、上品だ。高い天井、今はひっそりと眠るシャンデリア、マホガニーのテーブル、木目の美しいキャビネット等が設えられている。奥には化粧室やバスルームも完備されていた。
大きな窓からはオリヴァーの祖父母であるブランドン老夫婦の自慢の庭が見渡せる。夏の強い陽を浴び、どこまでも伸びる緑の絨毯は、一日中歩き回っても終わりにたどり着けないくらいだ。深紅やピンクの薔薇が咲き乱れ、風に乗って甘い匂いが漂い、まるで香水のシャワーを浴びているかのようである。
昨日の午後、二人はブランドン老夫婦と共にこの庭でピクニックをした。美味しいサンドイッチを食べ、食後に紅茶と焼き菓子を頂きながら、この素晴らしい庭を愛でるという最高の一時だった。
ブランドン老夫婦は溺愛する孫であるオリヴァーの婚約者として、シャーロットを大変気に入ったらしい。「品が良く心根の優しい素晴らしい女性だ」と、絶賛していた。
婚約者として認めてもらえて、シャーロットは心から安堵した。自身が没落貴族の出であるということで、婚約を反対されるのではと心配していたのである。
そう不安がる彼女に対し、オリヴァーは、
――例え誰かに何か言われたとしても、俺が君を守る。安心してくれ。
と言ってくれた。その気持ちがシャーロットは嬉しかった。
というわけで、無事に婚約報告を終えた二人は、こうして甘い朝を過ごしているのである。幸い王立騎士団のナンバー2で超多忙なオリヴァーだが、長期の休みを貰うことが出来たのだ。
「オリヴァー様……起きて下さい。オリヴァー様……」
「ん……」
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