私と結婚して下さいまし

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私と結婚して下さいまし

 女性に興味が無いわけではないが、自分から口説くようなことは滅多にない。オリヴァーは由緒正しいブランドン公爵家の出だから、彼と結婚したがる令嬢は多い。なので皆{みな}こぞってアピールし、なんとか交際までこぎ着けるが、しかし長続きせず終わるのだという。それを何度も目にしている周りの人間が、「オリヴァーは恋を忘れてしまった」と噂しているのだ。 (そんなことないわ。きっとまだ運命の相手と巡り会っていないだけなのよ。私には、貴方様が運命のお方ですのに……)  一心に見詰めるシャーロットは、胸を高鳴らせながらオリヴァーを想う。 (覚えておいでですか? オリヴァー様……。私、あの時の小娘ですのよ。ジョージ・ウォーレンの妹ですの)  ――貴方に兄の結婚指輪を探していただきましたわ。あの日から、貴方に一生の恋をして、それ以来ずっと貴方を想い続けておりましたの……。どんなに辛い日でも、貴方様が私の希望でしたわ。  心の声が本当にオリヴァーに届いたらどんなにいいだろうか。自分の熱い想いが彼に通じたら、どれほど幸せだろうか。  でも無理だと分かっている。 (そうよ、私は没落貴族。オリヴァー様は未来の騎士団長。住む世界が違うの。だから、想うだけ)  シャーロットはいつの間にか祈るように指を組んでいた。オリヴァーのいい横顔に語り続ける。 (どうか、こっちを向いて下さいまし。あなたの美しい瞳で私を見て下さい。シャーロット、と名前を呼んで下さい。そうすれば、私はこのまま死んでもいいです)  ――ああ、オリヴァー様、オリヴァーさま。 (私を貴方の妻にしてください……)  長年の片想いが強すぎたのだろうか。それとも神様の粋な計らいだろうか。シャーロットの唇は本人の意思を無視して、勝手に動いていた。 「オリヴァー様、私と結婚して下さいまし」
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