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エメラルドの瞳
(は、はうう~!)
――さわっ触ってる。オリヴァー様が私に……!
緊張と、今まで味わったことのない天上の喜びに、シャーロットはカチコチになってしまう。
「おい、固まってるぞ。それで俺の婚約者が務まるのか?」
「は、はいぃ~」
「くくく。面白い金ネズミを拾ったもんだな。今日はいい夜だ」
オリヴァーは楽しそうだ。いつもの無表情はどこにいってしまったか、と思うくらいだ。
(もしかして、こっちが本当のオリヴァー様なのかしら……?)
ぽうっと見とれていると、突然ドアが開かれ、先程までシャーロットをいじめていた令嬢達が飛び込んできた。
「いたわっ、シャーロット。あんた逃げるんじゃないわよ……って、えええ? オリヴァー様!?」
リーダー格の令嬢が、シャーロットと一緒にいるオリヴァーに気づいて目を見開いた。
「まっ、まあオリヴァー様。こんなところのいらしたのね。皆探していましたよ。おほほほほ」
リーダー格の令嬢は、ぎこちない笑顔を作りながら羽扇で口元を覆う。他の令嬢も同じようにした。
(またあの娘{こ}達だわ)
シャーロットはビクッと身体を震わせた。そのままシャーロットが一歩下がったのに気がついて、さりげなくオリヴァーが前に立つ。まるで庇うような格好だ。
「何かご用ですか。ご令嬢方」
オリヴァーが淡々と言った。
「いえ、別に。私たちはそちらのシャーロットさんとお喋りしたいだけですの。ね、シャーロットさん?」
「……っ」
「ほら、女だけで話しましょうよ? あちらには美味しいスイーツもありますのよ。ね、行きましょう?」
言葉は丁寧だが、令嬢達の目には意地悪な光がある。
(嫌だわ。行きたくない……)
シャーロットは無意識にオリヴァーの袖をつかんでいた。細い指が小刻みに震えている。
(助けて、オリヴァー様)
「……」
シャーロットの無言の助けに気がついたオリヴァーが、不意に彼女を横向きに抱き上げた。
背中と膝下に感じる、強い腕の力。ふわっと身体が宙に浮き、天然の巻き髪が自然に広がる。オリヴァーはまるで幼子のように彼女を軽々と持ちあげている。
シャーロットは驚きにサファイアの瞳を見開いた。呼吸をするのも忘れてしまう。まるで時が止まったかのように、彼女はオリヴァーの整った横顔を見詰めた。長く伸びた睫毛{まつげ}の奥で輝くエメラルドの瞳は、令嬢達を冷たく睨み付けている。
「きゃっ……!」
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