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婚約ぅ?!(※2023/05/02追加)
ようやくシャーロットは声を発することができた。バランスを崩しそうになった彼女は、彼の太くてたくましい首にしがみついた。服越しに厚い胸板も感じる。
(うわぁ、うわあ……!)
シャーロットは顔を真っ赤にした。ドクン、ドクンと心臓が痛いくらいに鳴っている。鼓膜が脈で破けそうだ。更に、騎士団の制服に染みついた彼の煙草の匂いがして、密着していることをようやく意識する。
「オリヴァー様?! 何を……」
リーダー格の令嬢が目を丸くして言った。
「シャーロットは私の妻になる女性です。無礼は許しませんよ」
満月を背景にオリヴァーが令嬢達に言い放った。ひやりとした響きだ。
彼は親しい者には自分のことを「俺」と呼ぶが、それ以外には「私」と呼ぶのだ、とシャーロットはその時気づいた。
(オリヴァー様……っ)
月明かりに照らされたオリヴァーは目を見張るほど格好が良い。形のいい鼻も、涼しげな唇も、どこをとっても完璧だ。さらにセクシーな声で自分のことを妻と呼んでくれている。月に照らされる彼の髪は、つやつやと黒光りし、このまま闇に溶けてしまいそうなくらい美しい。
一瞬の強い風に、咲いていた春の花がぶわっと舞い散る。いつも大人しい樹々達も、ガサガサと騒々しい音を立てる。
不幸続きだった自身の身に奇跡が起こっている、と彼女は混乱した頭で考えた。
「つっ、妻ですって? ご冗談を」
リーダー格の令嬢だ慌てた。
「冗談ではありません。彼女と私はたった今婚約しました」
「婚約ぅ!?」
令嬢達の声がぴったり重なった。
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