【第二章 ドキドキの同居生活】ブランドン公爵家

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【第二章 ドキドキの同居生活】ブランドン公爵家

「若奥様、おはようございます。良い朝ですねえ」  中年のベテラン侍女がにこにこしながら寝室に入ってきた。紅茶の乗ったカートを押している。 「お、おはよう」  シャーロットは落ち着かない声色で言った。そしてベッドに乗ったまま身を起こす。 「お紅茶をお持ちしました」 「ありがとう」  とソーサーを持ち、侍女が淹れてくれた紅茶をそっと口にふくむ。上品な香りに内側からほどけてしまいそうだ。 「ん……おいしいわ」 「ありがとうございます、若奥様」 「ねえ、そろそろ止めて下さらない?」 「? なんのことでございましょうか」 「その〈若奥様〉という呼び方ですわ。私、ただの婚約者なのよ」  シャーロットは戸惑いながら言った。  オリヴァーの屋敷に来てから三ヶ月。驚くほど広いブランドン公爵家の離れが未来の夫婦の住まいだった。  とは言っても、ブランドン公爵家は伝統ある血筋で、屋敷も小さなお城くらいあるので、離れもとてつもなく大きい。屋敷全体の外観は、白亜の壁に青いとんがり屋根の塔が立ち並び、それはそれは美しい。遠くから見た者は、広大な庭の奥にひっそりとそびえる優雅な姿に溜息をつかずにはいられない。まるで夢の城である。オリヴァーとシャーロットが住む離れも、そのミニチュア版くらいの規模だ。  ロマンチックな外観と呼応するように、内装もとてもエレガントである。ベージュなどの優しい色を基調とし、高い天井にキラキラと輝くシャンデリアがいくつも取り付けられている。壁という壁には絵画がかけられ、隙あらば色鮮やかな薔薇が飾られていた。家具は曲線美を取り入れた高価なものばかりで、ちょいと歩けば宝石つきの調度品――時計や花瓶など――に当たる、という有り様である。  また部屋数も恐ろしい程たくさんあり、ちょっと気を抜くと迷子になりそうである。慣れるまで、同じ部屋には二度と行けそうにない。
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