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オリヴァーの悩み事
「……はあ」
オリヴァーは長く重い息を吐いた。
(どうしたのかしら……。今日は溜息が多いみたい)
浮かない顔をする彼が気になり、シャーロットは口を開く。
「あの、今日はどうなされたのですか? 何か悩み事でも……?」
チラッとオリヴァーが彼女を見た。かすかに驚いたような色が瞳に浮かんでいる。
「……。いや、特にそういうわけでは……」
「でも、いつもと様子が違いますわ。私で良ければお話を伺いますよ」
「……。君に……?」
オリヴァーがエメラルドの瞳をスッと細めた。
「……っ」
ちくんと胸が痛んだ。
沈黙と、そのまなざしが、まるで君では頼りないと言っているように感じて、シャーロットは少し傷ついた。
(そうよね……。三十二歳のオリヴァー様から見たら、二十歳の私はまだまだ子供よね)
――信用して悩みを打ち明けるような相手には、到底ならないわよね。
「……っ、失礼いたしました。出過ぎたことを……。私では相談相手になりませんよね」
彼女は無理やり笑顔を作って部屋から出て行こうとする。そのぎこちない表情に何かを察したのか、オリヴァーがハッとして彼女の腕をとった。
「すまない。深い意味はなかったんだ。傷つけてしまったのなら謝る。すまなかった」
「オリヴァー様……」
「ただ……どこまで話していいのか一瞬考えていたんだ。あの子だけではなく、俺自身にも関わることだから」
「……あの子?」
シャーロットは繰り返した。
「とりあえず、座りなさい」
と言われ、シャーロットは改めてソファに腰掛ける。それからオリヴァーは、眉根を寄せてしばらく難しい面持ちで口をつぐんでいた。長い沈黙が過ぎる。
(一体何でしょう……)
シャーロットはじっと待っていた。
「君も知っているだろう。エマのことだ」
ようやく彼が口を開いた。
「エマ……」
意外な人物の名だった。
「あの子は半年前にここに来た。俺が連れてきたんだ。エマは俺の所属する騎士団が魔王討伐に行った、西の街に住んでいた」
「西の街……って、あの大きな被害が出た、あの街でございますか?」
「そうだ」
オリヴァーは頷いた。
西の街は魔王ギリェルモとその手下たちによって半分やられてしまった。その噂は王都にも届いている。住宅や建物が壊され、人がたくさん亡くなったらしい。
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