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彼の苦悩
「俺たちがエマの家に駆けつけた時、すでに両親は殺されていた。あの子は両親の遺体の側で呆然としていたんだ。その姿があまりに憐｛あわ｝れで連れて帰って来たんだ。しかしあの日以来、エマは笑うどころか言葉も話せなくなってしまった」
「そんな……！」
シャーロットは思わず口を掌で押さえた。幼くして両親を亡くした悲しみは人事とは思えない。エマの深い悲しみを思うと、勝手に涙が滲んでくる。
「俺たちがエマの家に着いた時、あの子の両親の身体はまだ暖かかったんだ……。もう少し早く助けに来られたら、エマの両親は助かったかもしれない。……ずっと後悔しているんだ」
オリヴァーは苦悩の滲む表情で言った。
「そんな……。オリヴァー様のせいではありませんわ。ご自分を責めないで下さい」
シャーロットは立ち上がり、オリヴァーの足下に膝をついた。そして涙に潤んだ瞳で彼を見上げる。
（オリヴァー様はなんてお優しい方でしょう……）
「エマを引き取ったことが、無力な自分の罪滅ぼしだと分かっている。けれどあの子のために何かしてあげたかったんだ」
「そうだったんですね……」
「でも俺に出来ることは何も無いようだ。実は今日はエマの誕生日なんだ。だから街で流行りの洋服を買って贈ったんだが……ダメだった。あの子はペコッとしただけで、すぐに学校へ行ってしまった。……俺ではあの子の笑顔を取り戻せないんだ」
「オリヴァー様……」
シャーロットは彼の辛そうな顔を見詰めた。
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