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エマの涙
クッキーの次に、四角く切ったロールケーキ用のスポンジ――これも彼女の手作りだ――を入れ、その上にクリーム、更に紅{あか}いラズベリージャムを重ねていく。
「あ、オリヴァー様。スポンジは一気に入れないで下さいね。一列くらいがいいですよ。また使いますから」
「む。そうだったな」
「あらエマ、上手ね。うふふ。クリームをいっぱい乗っけちゃおうか。巻き貝みたいに。素敵ね」
「……♪」
何回か繰り返す内に、可愛らしい層が出来上がった。
最後に飾りようにとっておいた真っ赤なラズベリーや、青紫の愛らしいブルーベリーを乗せて、完成だ。豪華で美味しそうなトライフルが出来ている。
「さあ、どうぞ召し上がれ」
シャーロットがスプーンを手渡す。エマをそれをそっと受け取ると、静かにすくって口に入れた。
「…………美味しい」
消えそうな位小さな声が聞こえた。
「――!」
(エマがしゃべったわっ……!)
彼と彼女は驚きと喜びに顔を見合わす。
「お……母さん、が作っ……てくれた……ケーキ……みたいな、味が……す、る……」
エマは次々に口に入れる。そして大粒の涙を流し始めた。少女に感情が戻ってきた瞬間だった。
「ひっく、ひっ、く……おかあ、さあーん……おとう、さぁん……。ううう……ううぅぅー……!」
たまらずシャーロットはエマを抱きしめた。彼女も泣いている。
「辛かったわね、エマ。さあ、いっぱい泣きなさい。もう一人で我慢しないで」
「わか……若奥、様……」
「シャーロットでいいわ」
「シャー、ロット……様……っ。ううぅぅ……っ、ひっく、ひくっ……!」
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