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君は心がとても綺麗だ
彼女とエマは抱き合った。そこにオリヴァーが近づき、静かに二人ごとをそっと腕に包んだ。
そうやって三人はずっと寄り添っていた。
☆~☆~☆~☆~☆
「今日は本当にありがとうございました。シャーロット様、若旦那様」
エマは微笑んだ。初めて見た少女の笑顔にシャーロットとオリヴァーはこころからほっとする。
「また明日ね、エマ」
とシャーロット。
「おやすみ、エマ」
とオリヴァー。
「はい。お休みなさい」
バタンとエマが自室の扉を閉めた。静かになった廊下で彼と彼女は見詰め合って笑った。
「良かったですわね」
「ああ、君のおかげだ、シャーロット。本当にありがとう」
二人は離れへ向かって歩き出した。もう夜である。
「残りのトライフル、俺たちも頂こうか」
「はい」
そのままの流れでオリヴァーはシャーロットの寝室にやって来た。メイドが先程作ったトライフルを持ってくる。それをソファで並んで食べる。
「それにしても、君に打ち明けて本当に良かった」
器を置いて、ぽつりとオリヴァーが言った。
「え……?」
「エマのことは、誰にも詳しい話をしたことが無かった。俺の弱さを他人に明かすようなものだったからだ。怖かった……。けれど君に話して良かった。救われたよ。ありがとう、シャーロット」
「そんな……。私は何もしていませんわ」
シャーロットは頬を赤らめながら言った。
「そんなことはない。見事なアイディアだった。エマも笑顔を取り戻したし、本当に感謝している」
「オリヴァー様……」
「……シャーロット、君は素晴らしい女性だ。ジョージの結婚式で出会った時は、まだ子供だったけれど、今や身も心も成長したんだね。外見だけじゃない、君は心がとても綺麗だ」
オリヴァーが言った。エメラルドの瞳が真剣にシャーロットを見詰めている。
「オ、オリヴァー様……」
ドキッとした。
「でもまだ、こういう所は子供かな。――ほら、クリームがついている」
大人の雰囲気から一転、クスッとオリヴァーが笑う。シャーロットの桜色の唇の脇に、トライフルのクリームがといているのだ。
「え? ――きゃっ、イヤですわっ」
慌てて口元を拭おうとするシャーロットに、彼がそっと手を伸ばしてきた。
「取ってあげよう。動かないで」
頬に彼の親指が触れ、シャーロットの桜色の唇の端をそっと拭った。オリヴァーはそれをぺろりと舐め取る。ちらりと見えた赤い舌にドキッとした。
しかしクリームを取ったにも関わらず、オリヴァーはシャーロットから離れずに、再度手を伸ばす。そして今度は両手で彼女の頬を包むと、ぐっと距離を縮めてくる。漆黒の髪が闇に溶け、碧の瞳だけが真剣に彼女を見詰めていた。
「……!」
美貌の猟犬騎士の圧倒的な迫力に、シャーロットは顔から火が出そうになった。呼吸が一気に早まり、心臓がドクドクと血液を送り出していく。
「あ、あの……っ」
(ち、近い、お顔が近いです……っ)
――恥ずかしい……!
「静かに」
オリヴァーは言った。
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