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異国の食べ物
「シャーロットさんを退屈させてはいけませんよ。こんな古い屋敷に閉じ込めておかないで、早く青空の下に連れ出しておあげなさい」
妻のマダム・ブランドンが優しく言った。品があり意思の強そうな瞳を持つ美しい老婦人である。
「そう急かさないで下さい。俺は彼女の隣だとよく眠れるんです。こんな気持ちの良い目覚めは久しぶりなんですよ」
とオリヴァーが席に着く。シャーロットもドレスのスカート部分を軽く持ちあげ、片膝を少し引き、礼をした。見事な淑女の仕草である。
「おはようございます、お祖父様、お祖母様。遅くなって申し訳ありません」
彼女も自身の椅子に腰掛ける。
「いいんだよ、シャーロットさん。それよりもお腹がすいているだろう。たくさん食べなさい」
と老ブランドン。
「シャーロットさん、このダシマキタマゴ、美味しいわよ。今朝摂れたばかりの卵をつかっているの。食べてみて」
マダム・ブランドンが言った。老夫婦は彼女に良くしてくれる。すでに家族の一員のような扱いだ。
「ダシマキタマゴ? 初めて聞く食べ物ですわ。ありがとうございます。頂きます」
シャーロットがにっこり笑った。テーブルには美しく設置された陶器や食器が並び、すぐに執事が食べ物を運んでくる。そこには、書物でしか見たことのないメニューがきれいに並べられている。
老夫婦は以前東洋のある島国に旅行してから、そこの食べ物にはまってしまったらしい。
「今朝の献立は、サラダはホウレンソウのオヒタシに、ダイコンの味噌スープに、白いライスに、さっき妻が言ったダシマキタマゴに、キンピラゴボウに、メインはサバのシオヤキだよ。デザートはアンミツを用意したよ。さあ、怖がらずに食べてご覧」
「うわあ……どれも美味しそうですわ!」
シャーロットは目をきらきらさせた。異国の料理に興味津々である。迷ってから、とりあえず食べやすそうな味噌スープに手を出すことにした。カップに指を添え、銀のスプーンで一口啜る。すると、滋味としかいえないものが舌に広がった。
続いてカットされた根菜のようなものをすくい、口に入れる。柔らかいが歯ごたえがある。噛む度に根菜の甘さが広がり、茶色のスープと絡んで、優しい味わいになった。
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