どうしたの?

1/1
前へ
/87ページ
次へ

どうしたの?

 シャーロットは自身の行動を思い出していた。もう何十回も反芻している。  母と会話していた数十秒の間に指輪は消えてしまった。  あの時の様子が脳裏に蘇る。小箱の中身は空っぽで、ビロードの真ん中が虚しくへこんでいた。風が窓から吹き込んで、冷たい汗にぞくっとした感覚まで生々しい。 (どうして? 一体どうしてなの?)  ――どこにいってしまったの。  あれから部屋中をくまなく探したが見つからなかった。だから、こうして外に出て、芝生の間を捜索しているのだ。 (あの時、蓋を開けたままにしておかなければ良かった。ごめんなさい、お兄様、お義姉{ねえ}様)  ――私のせいよ。私が悪いのよ。  ――どうしよう、どうしたらいいの。  自分を責めるシャーロットをあざけるように、カラスがまだ鳴いている。 「……ぐすっ、……っ、ぐす……っ。うるさいわよ、カラスさん。静かにして……」  焦りとパニックで涙が出てきた。ぽたぽたと頬から落ちていく。 (だめ、泣いている場合じゃないのよ)  ――でも、止まらないわ。どうしよう、誰か……。  その時だった。 「どうしたの?」  美声が頭上で響いた。  ハッとして見ると、煙草を吸う若い男が立っていた。 (まあ……ドーベルマンみたいに凜々しいお方だわ)  年は二十歳の初めくらいだろう。長身で、腰の位置が高く、四肢が驚くほど長い。一見細いが、しなやかな筋肉に覆われている。白い手の甲には血管が浮き、セクシーな感じだ。煙草を挟む二本の指は節だっていて、長い。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

435人が本棚に入れています
本棚に追加