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どうしたの?
シャーロットは自身の行動を思い出していた。もう何十回も反芻している。
母と会話していた数十秒の間に指輪は消えてしまった。
あの時の様子が脳裏に蘇る。小箱の中身は空っぽで、ビロードの真ん中が虚しくへこんでいた。風が窓から吹き込んで、冷たい汗にぞくっとした感覚まで生々しい。
(どうして? 一体どうしてなの?)
――どこにいってしまったの。
あれから部屋中をくまなく探したが見つからなかった。だから、こうして外に出て、芝生の間を捜索しているのだ。
(あの時、蓋を開けたままにしておかなければ良かった。ごめんなさい、お兄様、お義姉{ねえ}様)
――私のせいよ。私が悪いのよ。
――どうしよう、どうしたらいいの。
自分を責めるシャーロットをあざけるように、カラスがまだ鳴いている。
「……ぐすっ、……っ、ぐす……っ。うるさいわよ、カラスさん。静かにして……」
焦りとパニックで涙が出てきた。ぽたぽたと頬から落ちていく。
(だめ、泣いている場合じゃないのよ)
――でも、止まらないわ。どうしよう、誰か……。
その時だった。
「どうしたの?」
美声が頭上で響いた。
ハッとして見ると、煙草を吸う若い男が立っていた。
(まあ……ドーベルマンみたいに凜々しいお方だわ)
年は二十歳の初めくらいだろう。長身で、腰の位置が高く、四肢が驚くほど長い。一見細いが、しなやかな筋肉に覆われている。白い手の甲には血管が浮き、セクシーな感じだ。煙草を挟む二本の指は節だっていて、長い。
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