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連れ立って歩く。立体造形の実習室は絵画の裏手の別棟にあるので行ったことがない。
絵画棟の廊下には人が行き来きしている。後期課題が迫ってる時期なので、追われてる人が多く、実習室の扉の隙間から見える絵は完成間近なものか、できているものも多い。
絵画棟を裏手側に抜けると木彫の人が使っているのか外にも工房みたいなものがあって作りかけの木がゴロゴロとあった。
たくさんの作品を、みんなそれぞれどんな動機で作っているんだろう。
立体造形の棟に入り奥の部屋で高橋くんが鍵を出した。
「一部屋もらってるの?」
「今年、彫刻作品多いし、部屋余ってるからいいよって」
部屋は暗いけど、廊下から漏れ入る光で布が下がっているのが見えた。他にもなにか下がっているような気がしたけど、すぐに部屋を閉じられてまっくらになった。
「暗いね?」
「ごめん、ちょっとまって」
高橋くんは携帯を出して端にある機械をうごかしている。
携帯の僅かな光で、折り重なってるの布がみえる。今回は他にも箱のようなものがつられているみたいだ。布の色も白があり、垂れさがって床に落ちているものがある。
ぱっと、ひかりがついた。
プロジェクターからカラフルな光が布にあたる。他にも何箇所かにライトがあるようでランダムに光り、それが吊られた色フィルムにあたって布に色を移している。光が四角い箱に当たるとその箱に仕掛けがあるのかプリズムがうまれている。その全部がどこからか吹く風の音に、はためいて。
「きれい」
「真ん中まで歩けるよ」
言われるままに歩く。
下にも同じ透明な箱があったけどそれは中にクリスマスで使うようなLEDライトが仕込まれているようで、ランダムに、時には一斉にいろんな色で光る。よく見ると箱は色のついたフィルムが窓の形にはられていて、地面に窓の形をつくってる。
「すごい」
前に見たときよりもより、ずっとダイナミックにきらめいてる。
「すごくきれいで、いいと思う」
「ありがとう」
「詰まってるとか嘘じゃん」
「いや、教授に無駄なものがいっぱいついてるし、全部場所が悪いって、怒られたところ。ほら、これとかあんま意味ないし、」
と高橋くんはラメのような輝きをする布に触れた。確かに光の当たりどころが悪くそのラメがあまり見えない。
「色布に色を移すのもよしあしだし、風向も微妙だしね。というかまず雑すぎるってさ。せっかく一室、渡してるんだからちゃんとしろって、怖い怖い」
途中、担当教授の真似なのか口調を変えながら、高橋君は最後に苦笑する。
「でも、いいと思う。いいよ!」
「そんな手放しで褒めてもらえると嬉しい」
高橋くんのいる位置が暗くてあんまり見えないけど、声が照れている。
「これもモデルは空だよね? わたしと一緒だ」
私の風景は空がメインだ。これも緑がなくて、青色を強く感じる配色で、地面に家があって、頭上がメインの展示だから、モデルは空のはずだ。
よく見ると浮いてる箱にも窓があってそれは謎だけど。
「そう、空も含まれてる。もしかしたらテーマも近いかもしれない」
高橋くんは顔をあげて、自分の作品を見てる。布は色んな角度で不規則に張り巡らされ、破けているものもある。プロジェクターはときおり、上が赤で下が青という実際の空にはないグラデーションも移してる。色のついたフィルムが、ライトの光と風を受けてを色をひらめかせる。家が舞っている。部屋全体がかき回されたみたいだ。
「空が落ちてきそうだって、国山さんの絵を見たときに思った」
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