エンドロール

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エンドロール

 エンドロールが流れ、一人二人と席を立ってゆく。嫋々たる音楽が彼等を送りだし、元々数えるだけの観客もさらに少なくなった。  平日の夜。旬を過ぎた映画館に集う者は、そう多くない。真ん中の席に腰かける男は、途中で立ち上がることもなく、映画を手掛けた制作者たちの名前をひたすら眺めていた。 「……あ」  一席分離れて座る女が、小さな声を発した。男がそれに反応し、スクリーンから一時視線を外す。 「どうされたんです?」  女は横顔を暗がりに浮かばせたまま、朗らかな声色で答えた。 「私の妹が、今其処にいるの」 「……と言いますと」 「この映画の美術スタッフにね、妹が関わっているのよ」  男は視線を正面に戻す。既に美術スタッフの名前はなく、衣装協力の会社名に変わっていた。再び横を向くと、ほんの一瞬の出来事だというのに、女の感極まっている様が伝わってくるのだった。 「ね? 名前がちゃんとあったでしょう」 「……凄いじゃないですか。名前が載るなんて」  男は美術スタッフの名前を見逃したが、女にそう伝えた。仮に名前を一人一人眺めたところで、誰が彼女の妹かは解らないだろう。それでも、男の言葉はお世辞ではなかった。 「ふふ、ありがとう」 「……実は、僕もこの映画に携わったんです」 「あら、偶然ね。それで何に関わっていらっしゃるの?」  肘掛けから軽く身を乗りだして訊ねる女に、男はスクリーンに視線を移して答えた。エキストラの〈街の皆さん〉というのが男の役だ。実際に名前は載らなくても、故郷で映画の撮影に協力できたことは、男にとって、かけがえのない財産だった。 「私たちって、可笑しいと思わない? 制作スタッフなんて誰も気に留めやしないのに」  声が心なしか憂いを帯びる。確かに、大抵は役者の名前ばかりに目が行きがちで、後は余韻を楽しむだけにすぎない。そもそも余韻を楽しもうなどと考える人ばかりではないのだ。現に、この会場には二人しかおらず、エンドロールの始まりとともに皆帰っていった。 「そろそろ本当に終わってしまうわ。寂しいわね」  音量が緩やかにしぼんでゆく。 「……終わりませんよ。明日も映画は上映されますから」  二人はエンドロールをいつまでも見つめている。
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