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あの時、そうだ。あの時、初めて出逢ったんだ。あの時───。
そう思える人が、私の人生の中で、何度あっただろうか。
戦争で、鉛に射抜かれ、死に絶える赤い星の数々。
病気、殺人、自殺、老衰、人が死と出会うには、様々な要因がある。
僕が、誰かの最期を迎えるまでに、「さよなら」を交わして、涙を流して、会わなくなった人などいただろうか。
そんなに難しい事と出逢う事は、そうそう無いだろう。
最期にどんな別れ方をしたとしても、僕には泣かない自信がある。
何故なら、僕は、もう死んだからだ。
戦場で鉛に射抜かれ、身体に穴ができてしまった。
それは、雪が滴る季節だったと思う。
積もった白に足を取られ、ただ、赤く染まる。
そんな呆気ない生涯だった。
此処では、虹の月を見ることができた。
此処では、鉛が行き交い、死が蔓延る場所。
文明が息絶えた今。
世を蹂躙するのに、正義の一つはいらない。
数えられる正義の中で、温かい腕の中で死ねたことは僕にとって、幸せだったのだろうか。
後悔の遺らない人生なんて、面白いだろうか。
少なくとも僕は、今までしてきた恥ずかしいと感じること、間違ってきたことを悔やんでいる。
どうしよもなく、だ。
不意に思い出すと、今でも思い出し笑いを引き起こしてくれる大切なメモリーになっているとしみじみ想う。
銃声が轟く間に、紅い月が大きく見えた。
そして、
いつも通り、淡い、綺麗な純白の雪が悠々と、降っていた。
僕は、恋人と隣の街に逃げることにした。
僕の上司が、教えてくれた。
いずれ、僕の故郷はこの戦争によって、無くなると。
故郷を二人で手を繋いで出て、離さないように街を目指し、森を彷徨っているとき、
屈強な見た目の敵軍の一人が現れた。
相手からは、人の顔かと思えないくらいの、おぞましいモノを感じた。
───胸が、痛かった。
死んですらいないのに、身体の中心から雪を溶かすほどの想いが漲ってきた。
恋人が、殺されるのを見たくない、と。
「雪咲……」
「逃げろおおおぉッッ!!!!!」
必死の抵抗も虚しく、僕は死んだ。
意識が途切れる前に彼女の足跡と共に頭が 、───ズキンと痛くなって、
待雪草が、花を添える彼女が──過ぎって行った。
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