12人が本棚に入れています
本棚に追加
「参ったよ。聞いてくれよ。」
悪友の岡島が、いつもとかなり違った様子で、嘆いているので、珍しいこともあるものだな・・・と、不思議に思った。
あの、普段、趣味で空手やっちゃうくらいに強気の岡島が、同じ空手仲間の佐々岡と泣きがはいるなんて、かなり参ったことが起こったのであろう。
とりあえず、話を聞いてみた。
「伊能さんなのだよ。伊能さん。」
伊能さん?
なんか、前、そういうとんでもないおじさんがいることは、確かに聞いていた。
警備員のアルバイトで、いつもこの2人とタッグを組むこのおじさんが、手に負えないことは、他の友達も知っていた。
岡島は喋りだした。
「全く参っちゃいうのは、俺たち、佐々岡と共に、伊能さんと美浜区の住宅展示場の警備員のアルバイト入ったのだよ。そこまではいいのだよ」
ふむふむ。
「そしたら、伊能さん、確かにもう晩夏といえども猛暑で暑すぎて、警備員のアルバイトって、結局交通誘導だろ?3人とも、汗だくになっちゃって、大変だったのだよ」
そこまではわかる。
「そしたら、まだ就業時間内なのに、伊能さん、陽がまだ出ていて夕方でも明るいのに、急にいなくなっちゃってさ」
なるほど。
「しばらくしたら、住宅展示場の人が、俺たちのところに血相を変えて、すごい剣幕でくるのだよ」
「何とかしてくれと」
一体何があったのだ?
「そしたら、伊能さん、住宅展示場といえども、風呂場とか本当に水出るし、ガスとか使える状態になっているから・・・」
え?
「何と、住宅展示場の風呂場から」
「嗚呼、暑い夏は、熱い風呂が最高だね~」
なんていう声が、聞こえてくるというのだよ。
は?
「何と、伊能さん、警備員のアルバイトの仕事そっちのけで、勝手に住宅展示場の風呂場、入っちゃって、『いや~、おじさん最高の気分だよ』と、湯船につかっていたらしいんだよ」
ビックリ!!
あまりの非常識さに、岡島も、佐々岡も参っちゃって、
「伊能さん、勘弁してくださいよ」
と、泣きが入っちゃったらしいけれど、とうの伊能さんは、
「おじさん、年とっても働いて、偉いでしょう。おじさん、ヤングマンでしょう」
とか言って、風呂場で石鹸で体洗い出すから、住宅展示場の人、カンカンに怒りだしちゃって、
「おたくとは、もう契約しません。本部に連絡します!!」
とかいって、契約打ち切りになりそうになっちゃんだって。
あきれた。
ところがその翌日に、その住宅展示場に泥棒さんが入っちゃって、伊能さんも空手やっていたから、勇ましく3人で泥棒さん撃退しちゃったのだって。
住宅展示場側も、手のひらを返したように、
「よくやってくれた!!」
と、べた褒めで、
「前言撤回。これからも貴社に宜しくお願い致す次第です」
と、手のひらを返したように大喜びだったのだって。
はあ?
なんだそりゃ?
「とにかく、山中、お前も空手やろうぜ!そして、警備員のアルバイトやろうぜ!」
え?
ちょっと、待って。それは出来んよ。
しかし、思った。
人の人生なんてどこでどうなるか?わからない。
たとえ、住宅展示場の風呂場、勝手に入っちゃうような、トンデモおじさんだったとしても、泥棒さん撃退は、普段から空手で鍛えていたから出来たことであり、
「人は見かけによらない」
という、文言をじっくりと考えさせられる話を聞かせてもらったよ。
みんな、それぞれ世の中で役割があり、普段は不真面目そうに見えても、いざとなったときの底力って、空手で鍛練していたから出来た訳であり、なんか考えさせられちゃったよ。
伊能さんが、まだ、
「おじさん、若いでしょ。おじさんヤングマンでしょ?」
と、普段はおちゃらけてみても、人の実力っていざという時の生きざまででるのだな・・・・・・
と、思うところがかなりあった。
時代は混迷をきわめてきたが、たまにはこういうほっこりする話が、いかに人の心に明かりを灯すか・・・・・・
よき時代が来て欲しい。
そう、切に願う・・・・・・
Fin
最初のコメントを投稿しよう!