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3.名物!
二人でペンキをバシャバシャぶちまけるようなゲームをたっぷりと楽しんで、そしてやがて夜になった。
「ご飯作る」
栗乃が立ち上がり栄里奈も続いた。
「ん。手伝うよ」
「栄里ちゃんはお客様。客人をもてなすのは家人の役目」
「いいの? なんか悪いなって」
「そんなこと、ない。大したものは出せないけど、何か作ってくる。……何を食べたい?」
「うーむ」
栄里奈は少し考えてから、一つのリクエストをした。
「では。秋山家の名物を一つ」
「秋山家の名物……。承知した」
おぉ。名物あるんだと、栄里奈は思った。
「オーダー入ります。秋山家名物二つ」
栗乃は呟きながら、キッチンへと消えていった。
──それから十数分後。秋山家の食卓に座す二人。
(カレー……丼)
ジャガイモと人参と玉葱。そして豚肉。とてもシンプルな組み合わせのカレー。普通においしそう。何故か丼に盛られている。
そして合わせるかのように味噌汁。豆腐、わかめ、油揚げ。これまた普通だ。
しかしここで栗乃は何を思ったのか、味噌汁の器を持ち上げた。
(お、おおぅ)
そして栄里奈が見守る前で、カレー丼の上にかけたのだった。丼からこぼさないようにとゆっくりと。
(そ、そうきたか)
なるほどと、栄里奈は思った。
栗乃はちょっと恥ずかしそうにしていた。そして、問うた。
「どん引きした?」
「してないよ。けど、変わった食べ方だなって」
それならよかった。とでも思っているのだろうか。
「はい。どうぞ」
「ドーモ」
栗乃は表情を一切変えずに、栄里奈にレンゲを手渡した。
「これが秋山家名物カレーねこまんま……もとい、カレーみそスープご飯」
「ほぅ」
ああなるほど。名物だ。栄里奈は頷きながら栗乃のやり方に従った。
栗乃は自分の要請を受けて、秋山家名物カレーねこまんまもといカレーみそスープご飯を作ってくれたのだ。
同じ食べ方をしなければ無作法というものだろう。
そうして二人、いただきますをしてから食事を始めた。
「……どう?」
「結構うまい」
案外悪くない。悪くないぞと栄里奈は思った。雑炊みたいにガツガツいける。
「そう」
栗乃は一瞬穏やかに目を伏せてから、食べ始めた。
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