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タイム・バーグラー
幹線道路から一本入った市街地のど真ん中に、周囲を長大な壁で囲まれた豪邸がある。
原田建設三代目社長、原田敬三の自宅だ。
今そこに、闇夜を切裂いて黒塗りのセダンがやってきた。
車が目の前で停まるのを待っていたかのように、門のシャッターが上がり始める。
運転手が車を再度走らせようとアクセルに足を掛けたその刹那、ヘッドライトの中に、作業着姿の男が浮かび上がった。
「社長! お願いです、お願いします! せめて話だけでも聞いて下さい!」
急ブレーキにがくんとつんのめり、後部座席に座った恰幅の良い男は不機嫌そうな顔で舌打ちした。敬三である。すぐさま助手席から飛び出した秘書が、作業着の男に詰め寄る。
「邪魔をするな。どけっ!」
突き飛ばされた作業着の男は地面に転がった。打ち所が悪かったのか、胸のあたりをおさえてゴホッゴホッと激しく咳き込む。
「お父さんっ!」
娘らしき若い女性が駆け寄るが、一切意に介そうともせず、車は門の中へと吸い込まれていった。
「は、原田社長っ! た、頼むぅっ!」
悲痛な叫び声も届かず、無情にもシャッターは閉じられた。
「く、クソぉっ! せめて話だけでもっ!」
「お父さん、もういいから! 早く病院に戻ろう!」
「そんなわけに行くかっ! このままじゃお前達にまで……ゴホッ! ゴホォッ!」
「お父さん!」
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