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「……なーにやってんだ。こんな夜中によ」
うずくまる二人に、一つの影が歩み寄った。
ひょろりとした長身を、ぶかぶかの黒づくめの服に包んでいる。髪の毛だけが燃えるように赤く、まるで死神のようにも見えた。
「オレもちょっくらあいつに用事があってよ。ははぁん。見たところ、あんたらもあの社長に苦しめられてるクチか」
「ほっといてくれ! あ、あ、あんたには関係ない……ゴホッ」
「そうなんです!」
咳き込む父親の背を撫でながら、娘が叫んだ。
「ウチは昔から付き合いのある下請けなんですが、三年前にあの社長に代わってから、色々と難癖をつけては工事のやり直しをさせられたり、工事代金を払ってもらえなかったりと酷い仕打ちを受けて……無理をしたばかりにお父さんも体を壊して……それで」
「なるほどなぁ。聞いた通りのド悪党ってわけだ」
男はにやりと笑った。
「ちょっくら俺が言って話を聞いてきてやるよ。あんたらはさっさと病院に戻りな」
「話をって……あなたは?」
男は少し悩むようなそぶりを見せた後、お道化たように言った。
「ま、言うなれば……世紀の大泥棒ってヤツだな」
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