タイム・バーグラー

2/10
前へ
/10ページ
次へ
「……なーにやってんだ。こんな夜中によ」  うずくまる二人に、一つの影が歩み寄った。  ひょろりとした長身を、ぶかぶかの黒づくめの服に包んでいる。髪の毛だけが燃えるように赤く、まるで死神のようにも見えた。 「オレもちょっくらあいつに用事があってよ。ははぁん。見たところ、あんたらもあの社長に苦しめられてるクチか」 「ほっといてくれ! あ、あ、あんたには関係ない……ゴホッ」 「そうなんです!」  咳き込む父親の背を撫でながら、娘が叫んだ。 「ウチは昔から付き合いのある下請けなんですが、三年前にあの社長に代わってから、色々と難癖をつけては工事のやり直しをさせられたり、工事代金を払ってもらえなかったりと酷い仕打ちを受けて……無理をしたばかりにお父さんも体を壊して……それで」 「なるほどなぁ。聞いた通りのド悪党ってわけだ」  男はにやりと笑った。 「ちょっくら俺が言って話を聞いてきてやるよ。あんたらはさっさと病院に戻りな」 「話をって……あなたは?」  男は少し悩むようなそぶりを見せた後、お道化たように言った。 「ま、言うなれば……世紀の大泥棒ってヤツだな」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加