タイム・バーグラー

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   ◇     ◇     ◇ 「あれは……吉永技研の社長でしたか。末期癌で療養中と聞いていましたが」 「死ぬに死にきれないと飛んで来たんだろう。放っておけ。どれだけ借金があろうと、本人が死ねば一緒に墓場行きだ。むしろ今少しばかり金をやったところで死に金になる。ビタ一文、払ってやるなよ」  敬三はぎろりと秘書をにらみつけた。  先代社長の急死に乗じ、目の上のたんこぶだった専務を社内工作によって封じ込め、原田建設の実権を握ってから三年になる。敬三にとってはようやくこの世の春を謳歌し始めたところだ。  自分でもかなりの無茶をしてきたのは承知の上だ。いくつもの下請けや協力会社が倒産し、部下を追いつめ、自ら命を絶った者もいた。しかし不思議な事に、その度に原田建設自体は大きくなり、敬三の富はますます栄えた。  立派な城は、たくさんの屍の上にこそ建つ。むしろより強固な城塞を築き上げるためには、自らすすんで屍を増やすべきだとすら思えてくるのだった。 「では明朝は七時に出発で」 「あぁ。朝飯はガレットにしてくれ。スモークサーモンとキャビア、それからクリームチーズを忘れずにな」  自室の扉を閉めた後、やっぱり和食が良かったかな、と思い直したが口にはしなかった。別に明日になってから言ってもいい。急なオーダーにも対応できるか、たまにはシェフを試してやろう。  慌てふためくシェフの顔を想像し、ほくそ笑みながらシャツのボタンを外す。と――
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