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「……原田敬三、だな」
いつの間に入り込んだのか、部屋の中に黒ずくめの男が立っていた。
「き、貴様っ! 何者だっ!」
「こんな夜中に金持ちの家に忍び込むなんて、決まってんだろ。泥棒だよ」
パンッ! パンッ!
男が言い終える前に、乾いた銃声が響いた。続けざまに、一発。二発。
後ろ暗い想いには事欠かない敬三は、いつしかその筋から拳銃を仕入れ、肌見放さず持ち歩くようになっていた。
ストレス解消も兼ねて、月に数度は射撃訓練にも赴いている。引き金を引く指には躊躇も迷いもなく、照準はピクリともブレないーーはずだった。
しかし敬三は目を剥いた。間違いなく真正面から打ち抜いたはずなのに、男には傷一つなかった。
「き、貴様、一体……。お、おいっ! 誰かっ! 誰かいないのかっ!」
「いねーよ」
男は笑った。
「今いるのはオレと、あんただけだ。警報機も止めさせてもらった。邪魔は入らねえ」
「ば、化け物めっ! なにが目的だっ! 金かっ! い、いくら欲しいっ! 百万か、二百万かっ!」
敬三は部屋のクローゼットを開けると、中から取り出した札束を次々と無造作に投げつけた。ひらひらと部屋中に一万円札が舞い散る。
「化け物扱いするんじゃねえよ。かといって名乗るほどのもんじゃねえが、人呼んで……タイム・バーグラー」
男が言った途端、敬三の顔が引きつった。
「あんたぐらいの悪人なら、聞いた事ぐらいはあるだろう。あんたの時間を盗みに来た」
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