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先日、とある財界著名人を囲むパーティーで噂を耳にしたばかりだった。
影でキングメーカーとも呼ばれた与党の大物議員が何の前触れもなく突然死を遂げたのは、タイム・バーグラーの仕業だ、と。
その前にオリンピックの理事まで務めた大学教授が病に倒れたのも、経済団体の重鎮である電子メーカー会長が航空事故に遭ったのも、その裏にはタイム・バーグラーと名乗る男が関係しているのだと、皆まことしやかに語っていた。
なんでもタイム・バーグラーは、直接人を殺める事はしないらしい。その代わり、その名の通り、相手に残された時間を盗んでいくというのだ。
残された時間――すなわち寿命を奪われた相手は、程なくして何らかの形で死を迎える。
しかしタイム・バーグラー自身が手を下したわけではないから、その死が表沙汰になる事はない。あくまで不自然な自然死として葬られてしまうのである。
「わかってんなら話は早い。オレはこれまで、何十人何百人っていうヤツらの時間を盗んでるからな。銃で撃たれようが、ナイフで刺されようが、例え爆弾で木っ端みじんにされようが、オレの寿命が尽きる事はあり得ない。つまり……何をしても無駄って事さ」
「ま、待て! どうして私を⁉ 誰の差し金だ! さ、さては外にいた吉永の仕業か? それとも、小野工業の倅か? 選挙で負けた小西の腹いせか? 一人だけ泥を被った八巻の仲間か? だ、誰に頼まれた!」
「おーおー、よくもまあいろんな名前が出てくるもんだ。そんだけ自覚があるんなら十分だろ。強いてあげるとすりゃ、民意ってやつだな」
「民意……」
「世のため人のため、あんたには消えてもらう。それだけの事だ」
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