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「ひっ……」
後ずさりしようとした敬三は、足が震えてその場に尻もちをついた。
「ま、待ってくれ。そうだ、いい女がいる! 貴様にやろう! この間までばんばんテレビにも出ていた、まだ十代のアイドルだ! 好きなようにしてくれて構わんし、なんなら私の代わりに時間を奪ってくれても構わん! 私の寿命なんぞせいぜいニ、三十年がいいところだろうが、そいつなら倍以上寿命があるはずだ!」
「この期に及んで清々しいまでの悪党っぷり、反吐が出るぜ。それでこそこっちもやりがいがあるってもんだ」
男は静かに、右手の人差し指を敬三の額へと突きつけた。
「盗ませてもらうぞ、あんたの時間」
ぎゅっと目を瞑り、観念する敬三だったが、男の指はひらがなの"の"の字を描くように、敬三の額でくるりと円を描いただけだった。
「な、なにを……」
「もう終わったよ」
拍子抜けする敬三に、男はにやりと笑った。
「あんたに残された時間があとどれだけあるのか、オレにもわからない。あと一日かもしれないし、一週間ぐらいはあるかもしれない。せいぜい必死に生きるんだな。今まで自分を助けてくれた人に感謝してまわるでもいいし、死んでバレたら困るようなもんを隠す隠蔽工作に奔走するでもいい。勝手にしろ」
真っ青な顔でぼう然としていた敬三は、はっと我に返ったように、部屋を飛び出して行った。
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