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本番前の渋谷サンプラザホールは、緊張感に包まれていた。
4人組男性アイドルグループ「Honey Prince(ハニープリンス)」の東京公演開場時間まで、残り40分をきっている。
ライブ前の最終確認の為、慌ただしく廊下を駆け回るスタッフたちの間をすり抜けて楽屋を覗き込むと、男が1人ぽつんと座っていた。
本番前に邪魔しちゃ悪いかな、と一度は顔を引っ込めようとしたが、彼のやけに暗い表情が気になって思わず声をかけた。
「どうした唯斗、大丈夫か?」
声をかけられた男――ハニープリンス(通称ハニプリ)のオレンジ色担当・相良唯斗は、驚いた顔で俺を見た。
今の今まで、楽屋に人が入ってきたことに気が付かなかったようだ。
「あっ、マネージャー、お疲れ様です」
そう言いながら軽く会釈をする。年上相手だろうが関係なくタメ口で話しかけてくるメンバー達の中で、常識人の彼だけは俺に敬語を使ってくれる。
俺は、唯斗の向かいの席に腰掛けた。
「最近スケジュールきつかったし、結構疲れ溜まってるんだろ。でも今日の東京公演でツアーは終わりだから、あともうちょっとの辛抱だ。なんとかやれそうか?」
先月から始まった5大都市ツアーも、大阪・福岡・名古屋・札幌をまわって今日の東京公演でいよいよラストだ。普段からトレーニングを積んでるとはいえ、体力的にそろそろ限界が近いのだろう。そう思ったのだが、俺の気遣いはどうやら的はずれだったようで、彼は曖昧な返事をした。
「その、身体の方は、特に問題ないんですけど……」
「なんだ? 何か他に心配事でもあるのか?」
唯斗の顔を覗き込むと、彼は気まずそうに目をそらして黙り込む。
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