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そこで、話は唐突に遮られた。コンコンという楽屋をノックする音が聞こえたからだ。ドアを開けると若い女性のスタッフが出てきて「そろそろスタンバイお願いします」と告げた。もうそんな時間か、と腕時計を見て驚く。気づけば唯斗の話にすっかり聞き入ってしまっていた。
「時間が経つのって早いですね。でも、マネージャーに話を聞いてもらえてスッキリしました。ありがとうございます。ツアー最終日、頑張ってきます」
唯斗の表情は最初に比べると、幾分か明るくなっていた。
「そうか、こちらこそ話してくれてありがとう。お客さんの中に不審なやつが紛れ込んでないか注意して見張っとくよう、警備員にもしっかり伝えとくよ。あと念の為、ツアーが終わったら神社にお払いに行こう、俺も同行するから。じゃあ、気をつけて行ってこいよ」
軽く彼の肩を叩いて、送り出した。ドアがバタンと大きな音を立てて締まり、楽屋に1人取り残される。
それにしても、ツアー中最前列に変な女がいたなんて、全然気が付かなかった。他のメンバーやスタッフからも特にそういった報告は受けてないし、唯斗の勘違いだといいが……。と、そこまで考えて、あることを思い出す。そういえば、前回の札幌公演はビデオ撮影をしていたはずだ。プロモーションの一環として、来月あたりYouTubeにライブの舞台裏動画をあげようと思っていたのだ。たしか舞台袖から客席の方を映した映像もあったはずだ。
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