空への手紙

3/3
前へ
/3ページ
次へ
後ろを振り返った。 小さな男の子が立っていた。 茶色い巻き毛をいじりながら、男の子が見上げてくる. 「きみ、『なぉくん』かい?」 俺の問いかけに、男の子は首を横に振った。 「ちがうよ。」 「じゃあこれが君のって?」 「それ、ぼくの。」 男の子はじいっ、と俺の目を見ながら繰り返した。 それから、俺が手にしていたその手紙を、もぎとるようにうばった。 「おいっ?!」 男の子は駆け出して、そのまま女性の後ろに隠れる。 どうやら母親らしく、同じチャパツの巻き毛をしていた。 母親は一部始終を見ていたらしく、男の子に向けて、眉を吊り上げてみせた。 「こら、風太!勝手に人のものとっちゃ、だめ!」 息を呑んだ。 女性は紙を男の子から取り上げると、俺の目の前にきて、頭を下げた 「すいません、お返しします。」 「……いえ、それは俺のもんではないので。」 ようやっと、言葉を絞り出した。 「君が持っていた方が、いい。」 男の子は嬉しそうに、また紙を胸にしっかり抱え込んだ。 (まさか、な) (『ふーた』っていう犬が何らかの形で死んで、あの『風太』はその生まれ変わりだなんて… そんなこと、あるわけないよな) そう思いつつ、俺は… 生まれ変わりだったら,いいな 頭の片隅で、そう祈らずにはいられなかった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加