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後ろを振り返った。
小さな男の子が立っていた。
茶色い巻き毛をいじりながら、男の子が見上げてくる.
「きみ、『なぉくん』かい?」
俺の問いかけに、男の子は首を横に振った。
「ちがうよ。」
「じゃあこれが君のって?」
「それ、ぼくの。」
男の子はじいっ、と俺の目を見ながら繰り返した。
それから、俺が手にしていたその手紙を、もぎとるようにうばった。
「おいっ?!」
男の子は駆け出して、そのまま女性の後ろに隠れる。
どうやら母親らしく、同じチャパツの巻き毛をしていた。
母親は一部始終を見ていたらしく、男の子に向けて、眉を吊り上げてみせた。
「こら、風太!勝手に人のものとっちゃ、だめ!」
息を呑んだ。
女性は紙を男の子から取り上げると、俺の目の前にきて、頭を下げた
「すいません、お返しします。」
「……いえ、それは俺のもんではないので。」
ようやっと、言葉を絞り出した。
「君が持っていた方が、いい。」
男の子は嬉しそうに、また紙を胸にしっかり抱え込んだ。
(まさか、な)
(『ふーた』っていう犬が何らかの形で死んで、あの『風太』はその生まれ変わりだなんて…
そんなこと、あるわけないよな)
そう思いつつ、俺は…
生まれ変わりだったら,いいな
頭の片隅で、そう祈らずにはいられなかった。
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