序章ー転生先は遊戯の盤上ー

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少年が目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。 黒い石製でゴツゴツとした天井は、少年にそこが何処であるかを予測させない。 眉を潜めて周りを見ても、知らない物ばかりだ。 少年は上半身を起こし、いや、と首を振る。 記憶が混在している。 奇妙だ。 気味の悪さを覚えながら、再度周囲へ視線を這わせる。 大きな黒いカーテンの隙間から差す朝日が、アンティーク調に飾られた家具を照らしている。 自分はそれらを知っている。 知っているけれども、知らない。 困惑する思考に悩まされながら、巨大なベッドから降りて歩を進める。 先は家具の一つである大きな姿鏡であった。 布を取り払い、自分を見つめる。 真っ黒な髪は短く、前髪が垂れて目を覆っている。 反して病的なまでに白い肌は、健康体である己に疑問を抱く程であった。 前髪を上げて目を見る。 深紅。 おどろしい血の色をしたそれが、真っ直ぐに己を見つめ返していた。 「ふむ」 少年は顎に手をあてがって沈黙する。 そうして、ゆっくりと深く息を吸い込んだ。 「ぎぃやぁぁぁぁぁ!!!」 叫びをあげる。 戦き、後退り、腰を床へと落とす。 「な、、、な、、、ッ!?」 鏡の己を指差して震えた。 瞬間、音もなく唐突に少年の傍に影が現れた。 「どうされました!?(わか)!!」 少年はそちらへ目を向ける。 真っ白な髪に少年と同じく深紅の瞳をした女性。 女性は黒い軽装の鎧を身に付けており、心配そうに少年を見つめている。 しかし、少年の視線はそこに無かった。 何故ならば、女性は髪とは対照的に深い黒の肌色をしており、綺麗な髪の隙間から、それはそれは巨大な二本の角を生やしている。 明らかに人間ではない。 「どぅわぁぁぁ!?」 少年が床に尻を擦り付けて後ずされば、女性は「若!?」と困惑して追いかけてきた。 「若!私です!!ケリスです!!」 ケリスと名乗った女性は四つん這いになって少年の顔を覗き込む。 「ちょーー」 少年は瞳をこれでもかと揺らしながら、右手をケリスの前に出す。 「ーーっと一人にして」 平静を装う少年に、ケリスは眉を寄せて首を傾げた。 「わ、若?」 「いや大丈夫。大丈夫だから」 「いやしかし」 「混乱してるだけだから、落ち着いてケリス」 「落ち着くのは若です。酷く動揺している様子ですが?」 「大丈夫、じゃないけど大丈夫だから」 「言動が既に危ういです」 少年は深呼吸をしてケリスを見つめる。 「人間の男の子には色々あるんだよ。特に思春期には」 「そうなのですか?」 「そうなの。ほら、出てった出てった」 少年は立ち上がり、無理矢理にケリスを立たせて扉へと向かわせた。
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