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風がヒョオヒョオと鳴いている。
真っ昼間というのに、上空の風は底冷えする程冷たかった。
(厚着してくりゃ良かったなぁ)
クロムは後悔をしながら、己を運ぶそいつを見下ろす。
見た目は竜で、体長は3メートルほど。
身の丈の何倍もある翼をはためかせるは、ワイバーンと呼ばれる魔物。
硬質的な緑色の体皮に、金色の目は縦にまばたきを繰り返している。
その目が嬉しそうに爛々としているのは、自由気ままに空を飛べるからだろうか。
思考の中でクロムは、自身が座る鞍を見た。
自分とそれを繋ぐ命綱などはなく、当たり前だがシートベルトなんてものも無い。
唯一あるのは、股の間から突き出ている鉄の突起だけ。
それを掴んで落ちないようにしろと言いたいらしい。
「もう少し人間への配慮をしてほしいもんだな」
クロムは遥か向こうの山々を眺めながら呟いた。
「落ちたら死ぬぞこれ」
クロムが言うと、ワイバーンが「キエー!」と鳴く。
「ボーグ、何て言ってんだ?」
クロムは鞍に少しだけできた自分の影を見下ろして言う。
「「その際は私目が命に代えても若をお救い致します。ジェイルバッハです」って言ってる」
「野心駄々漏れじゃねぇか」
クロムは笑う。
「気に入った。けど名前なげぇな。ジェイルでいいか?」
クロムが言うと、「クワッ!」と両目を見開き両翼を大きくはためかせてワイバーンが鳴く。
「「名を呼んでくださるとは何たる光栄。このジェイルバッハ、若の為ならば世界の果てまでも飛んでみせましょう」って言ってる」
「「クワッ」にそこまでの情報ぶちこめんのかよ」
クロムが笑っていると、「ねぇ、若」とボーグが呼んだ。
「何だ?」
「どうしてこんな指令受けたの?」
問いにクロムは閉口した。
「前の若なら、受けたとしてもこんな回りくどいやり方は選ばなかった。と思う」
「変か?」
「変、、、だけど、賢いと思う。前はもっと真っ直ぐで、変に勘繰ったりせずに言われた事をやってた感じ」
少し寂しげなニュアンスに聞こえて、クロムは沈黙してしまった。
しかし黙り続けるわけにもいかないので、微笑んで影を見下ろす。
「前の愚直な俺が好きか?」
「、、、ううん。どっちも好き。前はただカッコ良くて、今は、優しくてカッコいい」
「どっちも好き」というボーグの言葉に、クロムは嬉しさを感じた。
「バーカ、褒めても何もでねぇぞ」
そう言うクロムの顔は、今朝感じていた侘しさを消して溌剌な物へと変じていた。
瞬間にジェイルが「キエー!!」と鳴く。
「うるせぇぞジェイル!つうかてめぇ鳴き方鳥じゃねぇか!もっとドラゴンっぽく鳴け!!」
「クワッ」
「「無茶言わんでくださいよ。若」だって」
クロムは呆れ混じりに項垂れながら、「本物のドラゴン飼うのもありだな」とわざとらしく言って笑った。
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