序章ー転生先は遊戯の盤上ー

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クロムは巨大な扉の前に居た。 扉を叩くのが億劫だ。 意を決してドンドンと叩けば、「誰だ」と野太い声が中から聞こえてくる。 「ベリアルさん。クロムです」 答えると、「入れ」と直ぐに返ってくる。 クロムは扉を開け、「失礼します」と言って中へと入った。 ケリスは入らず、一礼をしてクロムの背中越しに扉を閉める。 クロムは間取りの広い室内を歩んで、部屋の奥でいそいそと机の書類を片付けていくそいつを見た。 人型でありながら、顔は山羊の特徴をそのままに四角いメガネをかけ、緑色の瞳を書類へと向けている。 黒い両翼は折り畳まれているが、背中越しに緑色の蛇の尻尾が踊っていた。 肩からは四本の腕が生えていて、瞬く間に書類を整理していく。 「おはよう。すまんな、これだけ片付けさせてくれ」 ベリアル本人だろうその悪魔が言うので、クロムは「おはようございます」と頭を下げた。 「いえ、気にしないでください」 ベリアルはそれを整理すると、「さて」と立ち上がる。 深い緑色の瞳がクロムを捉えた。 その冷徹な眼差しに、クロムは背筋を凍らせる。 「クロム。早朝から呼び出してすまない」 部屋の中央、座り心地の良さそうな深紅のソファに座りながら、向かい合った同じ色のソファへクロムを促す。 「いえ」 クロムはローテーブルを挟んでベリアルの向かいに座り、視線を返した。 「それで、ご用件とは?」 「あぁ、実はな」 ベリアルは勿体ぶって咳払いをし、微笑みを浮かべる。 「我が魔王軍最強とも名高い暗殺部隊隊長の君に、陛下直々の指令がある」 「御断りします」 「そうか。やってくーーえ?」 ベリアルは目を丸くする。 「いや、ちょっと今時間が惜しいんで」 続けたクロムのそれに、「いやいやいやいや」とベリアルは慌てる。 「陛下直々だよ?頼みじゃなくて指令だよ?断るとか無理だから」 「俺も俺でやらなきゃならない事があるんですよ。しかも指令って事は何か汚い仕事でしょ?今はやりたくないです」 「いやいや、断れないって。それと、暗殺とかじゃないから、安心して」 クロムは眉を寄せる。 「暗殺部隊の隊長への指令が、暗殺じゃないんですか?」 「君だって以前まで暇だと嘆いていたじゃないか。大体、戦争状態の国があるわけでもなし、一体誰を暗殺すると言うんだ?」 「ーーえ?」 クロムは立ち上がる。 「戦争、、、してない?」 「ど、どうしたんだ?クロム」 困惑するベリアルを他所に、クロムは視線を踊らせる。 そうして座り直すと、バンとテーブルを両手で叩いた。
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