第2章ー嘘も方便、下卑た雄弁ー

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アキスの街は、賑やかとは言い難かった。 煉瓦造りの家々に、舗装された道が続いていて、往来を闊歩して目につくのは魔族や魔物ばかりだ。 亜人と思わしき者もちらほらと見れるが、歩道の端を邪魔にならぬよう歩いている者ばかり。 その何れもが、魔族や魔物に怯えた目を向けていた。 クロムは後ろにジェイルを従え、その手綱を握って歩いていた。 通りすがる魔族がそれぞれクロムを見て驚いた顔をし、奇っ怪な目を向けてくる。 「まぁ、人間は珍しいよな」 言いながら、視線を真っ直ぐに歩いていく。 気にするだけ無駄だ。 恐らくクロムだけならば絡む事もあるだろうが、真後ろのジェイルが睨みをきかせている。 故にか誰もクロムに近付こうとはしなかった。 クロムはそれに気付いていて、「使えるじゃねぇか。ジェイル」と褒めた。 ジェイルは「クワッ」と小さく鳴く。 「「お任せあれ。若」ってさ」 クロムの影からボーグが言うので、クロムは「おう。頼りにしてるぜ」と笑む。 そうして見渡すように周りを見た。 「この辺の路地裏に亜人の宿屋があるはずなんだけどなぁ」 「路地裏なら入ってみた方が早くないかな?それかその辺の亜人に聞くか」 「それもそうだな」 「というかさ。若」 「何だ?」 「どうして態々亜人の宿屋を探すの?魔族が経営してる宿屋でも良くない?」 クロムは眉尻を下げて影を見下ろす。 「馬鹿お前、折角亜人の街に来たんだぜ?亜人料理とか食ってみてぇじゃねぇか」 「若、視察で来たんだよね?」 「仕事で来たから飯くらいは好きにしたいってのが、出張させられた会社員の楽しみだろ」 「かいしゃいん?ってなに?」 「頑張って働いてる偉い人達だよ」 「おぉー、ねぇ若、僕も?」 「お前は副長の仕事全然やらねぇから半人前だな。まぁ、偵察の仕事はきちんとこなしたから、半分はくれてやるよ」 ボーグは「むー」と不貞腐れた声を出す。 「じゃあ僕『かいしゃいん』にならなくて良い」 ボーグのそれに、「それはある意味正解だと思うぞ」と聞こえない程度の声でクロムは返した。 「働かざる者食うべからずって言うんだぜ?ボーグ」 「うぅ、良いもん。僕は今度から若の密偵になるから」 「それも俺に散々駄々こねて無理矢理に、だがな」 「、、、もう」 「拗ねんな。ちゃんと密偵として働くんなら、文句は言わねぇよ」 「頑張る!」 大きな返事に、「その意気だ」とクロムは笑顔を見せた。 クロムは後ろのジェイルを見る。 横切る魔族に翼が当たらないよう畳んでいるが、横幅はやはり広い。 曲がろうと思った曲がり角へ視線をやる。 通るにはかなり窮屈そうだ。 「しゃあねぇ。広い通り探すか」 呟いた時、「ぎゃ!」と悲鳴に近いうめき声と壁に何かがぶつかる音が聞こえて、クロムは視線を向けた。
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