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アキスの街は、賑やかとは言い難かった。
煉瓦造りの家々に、舗装された道が続いていて、往来を闊歩して目につくのは魔族や魔物ばかりだ。
亜人と思わしき者もちらほらと見れるが、歩道の端を邪魔にならぬよう歩いている者ばかり。
その何れもが、魔族や魔物に怯えた目を向けていた。
クロムは後ろにジェイルを従え、その手綱を握って歩いていた。
通りすがる魔族がそれぞれクロムを見て驚いた顔をし、奇っ怪な目を向けてくる。
「まぁ、人間は珍しいよな」
言いながら、視線を真っ直ぐに歩いていく。
気にするだけ無駄だ。
恐らくクロムだけならば絡む事もあるだろうが、真後ろのジェイルが睨みをきかせている。
故にか誰もクロムに近付こうとはしなかった。
クロムはそれに気付いていて、「使えるじゃねぇか。ジェイル」と褒めた。
ジェイルは「クワッ」と小さく鳴く。
「「お任せあれ。若」ってさ」
クロムの影からボーグが言うので、クロムは「おう。頼りにしてるぜ」と笑む。
そうして見渡すように周りを見た。
「この辺の路地裏に亜人の宿屋があるはずなんだけどなぁ」
「路地裏なら入ってみた方が早くないかな?それかその辺の亜人に聞くか」
「それもそうだな」
「というかさ。若」
「何だ?」
「どうして態々亜人の宿屋を探すの?魔族が経営してる宿屋でも良くない?」
クロムは眉尻を下げて影を見下ろす。
「馬鹿お前、折角亜人の街に来たんだぜ?亜人料理とか食ってみてぇじゃねぇか」
「若、視察で来たんだよね?」
「仕事で来たから飯くらいは好きにしたいってのが、出張させられた会社員の楽しみだろ」
「かいしゃいん?ってなに?」
「頑張って働いてる偉い人達だよ」
「おぉー、ねぇ若、僕も?」
「お前は副長の仕事全然やらねぇから半人前だな。まぁ、偵察の仕事はきちんとこなしたから、半分はくれてやるよ」
ボーグは「むー」と不貞腐れた声を出す。
「じゃあ僕『かいしゃいん』にならなくて良い」
ボーグのそれに、「それはある意味正解だと思うぞ」と聞こえない程度の声でクロムは返した。
「働かざる者食うべからずって言うんだぜ?ボーグ」
「うぅ、良いもん。僕は今度から若の密偵になるから」
「それも俺に散々駄々こねて無理矢理に、だがな」
「、、、もう」
「拗ねんな。ちゃんと密偵として働くんなら、文句は言わねぇよ」
「頑張る!」
大きな返事に、「その意気だ」とクロムは笑顔を見せた。
クロムは後ろのジェイルを見る。
横切る魔族に翼が当たらないよう畳んでいるが、横幅はやはり広い。
曲がろうと思った曲がり角へ視線をやる。
通るにはかなり窮屈そうだ。
「しゃあねぇ。広い通り探すか」
呟いた時、「ぎゃ!」と悲鳴に近いうめき声と壁に何かがぶつかる音が聞こえて、クロムは視線を向けた。
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