第2章ー嘘も方便、下卑た雄弁ー

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目を向けた先は、己が今曲がろうとして諦めた路地だった。 太陽の光は当たらずに暗がりを広げている路地であるが、幾人かの化け物の姿が見えた。 「鬼か」 クロムが言う。 青や赤が煤けた色合いの同種の鬼が、三体も集まっている。 鬼は身長2メートル程はあろうかという巨体で、目の前に転がるそいつを見下ろしていた。 「まだ子供だね」とボーグ。 クロムはあれで子供なのかと驚いた。 しかし、鬼達のせいで見えなかったが、その足下から這いずって出ようとするそいつを見つめて更に驚愕した。 見た目は少女であった。 茶色の短い髪の隙間から生えた同色の犬耳は垂れていて、濃いピンク色の瞳が疲弊した様子を物語っている。 服はボロきれのような麻布で、首と両手に黒い鉄の輪を嵌められ、それが鎖で繋がれている。 「あれは、、、」 「獣人の奴隷、、、だよね。若?」 一目で分かった。 けれども、クロムはボーグの問いに答えなかった。 何故ならば、その獣人を知っていたから。 名は『タスク』。 職業はシーフ。 素早さに長け、特殊技能で敵からアイテムを盗む事が可能なキャラクターだ。 そう、主人公の仲間である。 (何でタスクがここに?) クロムはタスクを見つめながら、いぶかしんで思考する。 思い出すのは、タスクが仲間になるまでの道筋。 タスクは、序盤から登場するものの、仲間になるのは中盤以降だ。 序盤にてトレジャーハンターを自称し登場、主人公の持つ『聖極(せいごく)(つるぎ)』を高額品だと勘違いして盗もうとする。 しかし失敗して逃走。 幾度か邂逅を繰り返すと、彼女の凄惨な過去も会話やストーリーの流れから知る事となる。 幼くして目の前で魔族に両親を殺され、奴隷の身の上となる。 持ち前のポテンシャルの高さで逃亡するも、子供が一人で生きていけるはずもなく、盗みを重ねて命を繋ぐ。 後に盗賊団に入るも、魔国の討伐隊に壊滅させられ、命からがら逃げ延びた先で悪い魔族に捕まりまた奴隷となった。 そうして再度逃げた先で主人公と出会い、人の暖かさに触れ心変わりしていく。 思い出せば、なるほどとクロムは頷いた。 恐らく彼女は、今かまだ先かは分からないが、これから逃亡する。 そうして主人公と出会うのだから、何も問題はない。 何より彼女は実際、あの鬼達よりも遥かに強い。 弱いフリをしているのは、何か退っ引きならない事情があるのだろう。 「迂回して行くぞ。面倒は避けたいしな」 クロムは言って路地を横切ろうとするも、目が離せなかった。
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