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切り傷の浮かんだ柔肌、苦痛に歪む顔。
クロムの中で苛立ちが募る。
だがしかしここで手を出せば、未来での主人公との出会いの邪魔をする事になる。
そう思考した時、「待て」と思考が囁いた。
そもそも、チュートリアルにおいて死ぬはずだったアリアは生きている。
ともすれば、【勇者】を国王から拝命した主人公が魔国を訪れる理由が無い。
あったとしても、僅かでも時期がずれるのではないだろうか。
「若、助けないの?」
ボーグがクロムに問い掛けた。
クロムはいやいやと首を振る。
「あ、あの獣人。強さを隠してる。問題ねぇだろ」
クロムは自身にも言い聞かせる。
盗賊だった娘だ。
演技をしているに決まってる。
あの苦悶の表情だって、本当は痛くも痒くもないのではないか。
「隠してるっていうか」とボーグ。
「あ?」
「だって、あの腕輪と首輪。"奴隷用"じゃん」
クロムは言われてハッとした。
単純な失念。
視線を向けた黒い輪は、奴隷用に作られたもの。
魔力の使用と操作を阻害する術式が編み込まれた物で、主人に逆らえないようになっている。
(演技じゃない。としても、、、クソ)
クロムは奥歯を強く噛む。
確実に悪手だ。
本来敵であるはずのクロムが、主人公の仲間に接触して良い事があるはずがない。
視線を逸らそうとした時、タスクがゆっくりと目を閉じていくその様を見てしまった。
意識の喪失。
一体の鬼が足を上げて蹴りあげようとしている。
「俺はアリアたんの為にここに来たんだぞ。クソ」
本音を溢して、「おい!」と声を張り上げた。
蹴りあげようとしていた鬼と、他二体の鬼がこちらを見る。
クロムはジェイルの手綱を離し、面倒そうに路地へと入った。
「おいガキども、いくら奴隷だからってイジメはやめておけ。みっともねぇぞ」
クロムが言えば、「あぁ?」と赤色の鬼がこちらへと歩いてくる。
「何だ人間?何か文句、、、でも」
鬼はしかし、クロムの後ろを見ていた。
奥の二体もクロムの後ろを見て、何故か怯えて震え始める。
「あ?」
クロムが怪訝な顔で振り向けば、狭い路地へ何とか入ってきたジェイルが必死の形相で鬼達を睨み付けていた。
怖い。
色んな意味で怖かった。
クロムが溜め息混じりに鬼達へ視線を戻すと、走り去る背中が見えた。
「嘘だろ」とクロム。
振り向いてジェイルを睨み上げ、「虎の威を借る狐じゃねぇか。恥をかかせんな」と怒った。
「クゥ」と寂しそうにジェイルが鳴く。
「「頑張ったのに」って落ち込んでる」
「俺がカッコつけようとしてる時はでしゃばるな。まぁ、ありがとよ」
笑みを見せれば、「クワッ」とジェイルも嬉しそうに鳴いた。
クロムは「さて」と気絶しているタスクを見下ろす。
「、、、しゃあねぇなぁ」
先程よりも大きな溜め息を吐いて、疲れたように項垂れた。
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