第2章ー嘘も方便、下卑た雄弁ー

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古びた宿屋の二階。 窓から夕日が差すその一室にて、クロムはベッドの前に立って困り果てていた。 手には女性用の子供服が握られ、ベッドには小柄なタスクが寝息をたてている。 亜人の経営する宿屋、クロムが主人に女の子用の服が無いか尋ねた所、「どうせ捨てるつもりの物だから」と善意で奥さんの服をくれた。 「ボーグ。持ってろ」 言うと影からボーグが出てきて子供服を預かる。 クロムはベッド脇に置いた椅子に腰掛けて、タスクの腕輪と首輪を見つめた。 「先ずはこれだな」 「外せるの?」 「いや、壊せば良いだろ」 「触れたら魔法使えないし、僕の力じゃ無理だよ?」 「人間の力でも鉄は壊せねぇよ」 言うとクロムは右手を上げる。 その右手が紫色に染まっていった。 「毒?」 「そうだ。触れたら使えねぇなら、先んじて毒を作っておけば良い。鉄だけを腐食させる毒。ちょうど試してみたかったんだ」 クロムは言いながら、腕輪と首輪を指先でなぞる。 途端に触れた箇所がシューシューと煙をあげ、バキッと壊れた。 「おー、上手くいくもんだな」 「若の能力にこんな使い方があったなんて、知らなかった」 「俺も最近気付いたんだ。能力も使いようだな」 クロムは微笑みながら腕輪と首輪をタスクから外す。 そうして今度は、麻布の服へと視線を向けた。 「どうすっかなぁ」 相手は女の子だ。 巻いただけのような麻布の服よりも、子供用に作られた服の方が良いとは思うが、如何せん男が着替えさせるのは倫理的にどうなのだろうか。 「流石にガキとはいえ、不味いよなぁ」 クロムが言うと、「え?この子、大人だよ?」とボーグ。 「は?」 クロムはボーグへ顔を向けた。 「亜人の男性は人間と同じように体も大きく成長するけど、女性はある程度で成長が止まるんだ。って、学校の授業で習ったと思うけど?」 「そんな設定あったか?」とクロムは首を傾げる。 「種類にもよるらしいけど、この子は犬種だから間違いないね」 当たり前にボーグが言うも、クロムは熟考をしていく。 記憶を呼び起こすも、タスクの年齢設定を思い出せない。 分からないので、「こいつ何歳くらいだ?」とボーグに尋ねた。 「たぶんだけど、20歳くらいかな?もしかしたらもうちょっと若いかも」 クロムは腕組みをする。 「だとしたら着替えさせるのは尚更良くねぇな。クソ。ケリスを連れて来とけば良かった」 その時、遠く離れた場所の国境警備部で仕事をしていたケリスがくしゃみをし、「この感じは若かな」と言って部隊の者達を困惑させた事をクロムは知らない。 「ねぇ、若。態々しなくても、起きるの待って着替えてもらえば良くない?」 ボーグに言われ、「お前、頭良いな」とクロムは感心して頷いた。
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