第2章ー嘘も方便、下卑た雄弁ー

23/50
前へ
/90ページ
次へ
クロムは街灯の下を歩いていた。 灯りに照らされたクロムの影が僅かに揺れ、クロムは一瞬だけ視線を向ける。 「何処行ってた?」 問い掛けに、「ちょっと」と影が答える。 「脅しの時は誰が相手でも喋れるんだな?」 皮肉を込めて言えば、「聞いてたの!?」と影であるボーグが驚く。 しかしクロムは「やっぱり脅しに行ってたのか」と呆れた。 「若にかまかけられたー」 悲しげにボーグが言う。 「別に構わなかったんだぞ?俺は。盗られて本気で困るもんは置いてねぇし、出ていくにも先立つ物がなきゃ無理だろう?」 「出ていってほしかったの?」 「、、、まぁな。面倒事は御免だしな」 「その割にこの仕事受けたんだ」 「指令だから断れなかったんだよ。まぁ、俺の目的とも都合が良かったしな」 「それって、お昼に言ってたアリアタンの為ってやつ?」 「アリア"たん"な?若しくはアリアたそでも可」 ボーグは影を揺らし、「意味が分からないよ。若」と声を不安色に染める。 「アリア姫の為だよ」 「若が助けたっていう?」 「そうだ」 「アリア姫とこの仕事がどう繋がるのさ?」 クロムはニヤッとする。 「後々効いてくるんだよ。こういう調べもの系のクエストってのはな」 「答えになってないよ」 「まぁ、楽しみにしてろ」 ボーグは「はーい」と生返事をするも、「それで、これから何処に?」と質問を重ねる。 クロムはまたニヤッとして、「町長の家だ」と言った。 「何で?」 「キマリスがパーティーを開く際、その会場を提供しているのが町長であるグィドルだからだ」 「そうじゃなくて、何でこんな時間に?」 クロムは視線を影へ向け、「迷惑か?」と笑む。 「自分より高位の者が来るのなら迷惑とも言いづらい時間帯だけど、連絡なしの訪問だし、常識外れではあるんじゃないかな?」 「常識外れだから良いんだよ」 「え?」 「この時間だ。昼間より使用人の数は圧倒的に少ないはずだ。つまり、突然訪問してきて資料提供を催促する俺に対し、何かを隠す暇は作りづらいよな?」 「うわぁ、悪い人だ」 「悪魔の息子だからな」 二人はケタケタと笑う。 「とはいえ、着いたら先ずはグィドルと話をする流れになるだろう。お前はその間屋敷を調べて怪しい事をしてねぇか見ておいてくれ」 「了解。でも、怪しいって?」 「資料を隠そうとしてるとか、些細な事なら何でも良い」 クロムが言うので、ボーグは「分かった」と返事をした。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加