第2章ー嘘も方便、下卑た雄弁ー

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クロムはニヤッとして、「それで、そのパーティーへ行った魔族を調べてみたんです」とソファに座り直した。 「ほとんどが、"奴隷制度撤廃"に対して、最後まで反発していた方々でした」 グィドルは冷や汗も動揺も最早隠せず、「そ、そうなんですか?」と視線を逸らす事しか出来ていない。 「そんな共通点がある彼等なんですが、何故最後まで反対していたのか理由を更に調べてみると、その趣向にあると分かりました。彼等は皆、奴隷を多く抱えていたんです」 クロムは指折り数えていく。 「殺害、労働、折檻にとあらゆる用途を備えていた奴隷制度が撤廃されてから、大きく変わった事って何か御存知ですか?」 「え、えーと、、、」 「"対価の発生"です。以前は所有物であった彼等は、その奴隷商に金を払えば後は何をしようが自由だった。所が、制度の撤廃によって彼等に給料を支払わなければならなくなったんです。これは非常に大きな変化だった」 「え、えぇ、それは存じてます」 クロムは嬉しそうに頷く。 「では、それによって発生した弊害とは何でしょう?」 「さ、さぁ?何ですか?」 「奴隷という存在が、対価を得る事によって"種族"ではなく"職業"になったんです。つまり、彼等に"権利"が生まれた」 「権利?」 「選ぶ権利ですよ。金が見合わなければ、拒否をする事が可能になった。つまり、主人を選ぶ権利が生まれたという事です。制度は撤廃された。しかし奴隷自体が違法になった訳ではない。それでも、昔より遥かに扱いづらくなった。権利とは自由に生きる為の権利でもある。それを阻害する者は、魔国でもきちんと"違法"です」 グィドルは瞳を大きく揺らす。 「そ、それとパーティーの件と、何の関係が?」 「先程の彼等ですよ。趣向だと言ったでしょう?調べてみると、彼等は奴隷を多く買い込んでいたのに、"総合数が変わらない"んですよ。一体、"何に"使っていたんでしょうねぇ?」 「さ、さあ?」 「グィドルさん。単純な足し算引き算ですよ?足されていく奴隷に対し、売ってもいないのに減ってるという事は、、、"そういう事"です」 グィドルの冷や汗は一目で分かる程増えていた。 クロムは「さてここで面白い話があります」と笑顔を悪辣なものへと変えていく。 「昨今の撤廃によって違法へと変わった奴隷の扱い方。されど欲深い魔族達は深層にある欲情を抑えて世上に合わせた生き方は難しいでしょう。そこに、不思議な奴隷商が現れます。その奴隷商が扱うのは、足のつかない奴隷だ。彼等はそんな旨そうな話を聞いて、どう考えるのでしょうねぇ?」 グィドルは吐きそうな顔へと変えながら、ただただクロムの言葉を聞いていた。
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