第2章ー嘘も方便、下卑た雄弁ー

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部屋には緊張感が漂っていた。 グィドルはクロムの目を見る事が出来ず、震わせた瞳を床へと向けている。 「わ、たしは、知りません。ただ、キ、キマリス様に、場所を提供しているだけなので」 明らかな嘘であった。 クロムは面倒そうに頬を指先で掻く。 「先程も言ったように、取って食おうって話じゃないんです。俺もその話に一口乗っかりたいだけなんです」 グィドルは眉を潜める。 「魔王様の息子とはいえ養子ですし、色々と金がいるんですよ。情けない話ですがね」 クロムは頭に手を乗せて情けなさを演出する。 「そ、そう申されましても、私は、な、何も知りませんので」 「じゃあ、誰に言えばいいんですか?」 「キマリス様に御相談されては如何かと、、、」 グィドルはチラチラとクロムを見ながら言った。 「そう、ですか」とクロムは顎に手を当てていぶかしんだ。 (王族の後ろ楯を得られるチャンスを蹴った?、、、いや、やっぱ"こいつ"じゃねぇな) クロムは「分かりました」と頷いた。 「では、もう一つの本題を良いですか?」 「は、はい?何でしょう?」 「そのパーティーに関する資料。全部出してください」 「はい、、、はぁ!?」 グィドルは立ち上がった。 クロムは「どうされました?」とグィドルを見上げる。 「あ、いや、資料なんて置いてませんよ」 「ここじゃないとなると、事務所ですか?」 「ですから、資料は無いと言ってるじゃないですか」 「高位魔族を呼ぶのに、リストも存在しないんですか?」 「そうです」 「そんなパーティーに高位魔族が来るはずないじゃないですか」 クロムはグィドルを睨んだ。 「参加している魔族が誰なのかも分からない。そんなセキュリティの甘いパーティーに参加する魔族なんて居るはずないじゃないですか。招待状や参加者リスト、提供する料理の在庫管理表も発注書も無いと?全体管理をする使用人のリストも?」 「は、はい。全て破棄してありますから」 グィドルは視線を大きく外しながら答える。 クロムは笑ってしまった。 「パーティーの度に破棄を?二度手間三度手間じゃ済みませんよ?俺をからかっているんですか?」 「そういう訳では、、、」 「分かりました。では、屋敷を調べさせてください」 「そ、それはちょっと」 「何か不都合でも?」 グィドルは耐えかねたのか、唐突に勢い良く立ち上がった。 「何の権限があってそんなーー」 「王族権限ですが?他に何か?」 冷静なクロムの言葉に、グィドルは閉口していた。
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