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クロムはグィドルの屋敷を後にして、帰路を辿っていた。
夜はとっぷりと更けきっていて、街灯だけが街を照らしている。
人通りは少なく、亜人どころか魔族もほとんど見当たらなかった。
「どうだった?」
歩きながらのクロムの問いに、街灯に照らされたクロムの影が揺れる。
「たぶん、屋敷にある。突然鬼が現れて捕まっちゃってさ。三階の何処かに空間隔離の魔術結界がある。そこじゃないかな?」
「突然気配が現れた感覚があったが、そういう事か」
「というか、途中からハッタリ言ってなかった?」
ボーグの問いに、クロムはカラカラと笑った。
「ほとんど最初からハッタリだよ。つうか聞いてたのか」
「良いのかな?若様がそんな事して」
「情報がほとんど無かったからな。正直、キマリスの出不精って話以外は俺の予想をペラペラと語っただけだ」
「それで?どうだったの?」
「ありゃ小物だな。グィドルじゃこんな大それた真似はしねぇ。つうか考えもしないだろうな」
「じゃあ、彼は利用されてるだけってこと?」
「そうなるな。しかも、操ってるのは外部の野郎だ」
「軍の外部ってこと?」
クロムは頷く。
「その外部の野郎が雇われてる可能性はあるが、少なくともグィドルは知らねぇ。その証拠に俺の「軍に登用してやる」っていう話に乗っかってきたからな」
「でも軍は絡んでるんだよね?」
「そうだ」
「だとしたら相当狡猾だね。一度軍の外を使ってこんな事をやらせているのだから」
「そうなんだよなぁ。面倒くせぇよ本当。俺の目的も果たせるかどうか怪しくなってきた」
通りに誰も居ないからか、影からボーグがピョコッと出てきてクロムの隣を歩き始める。
「若の目的って?」
「帝国との癒着だ。帝国側で誰が関わってるかを知りたい。恐らくそいつは、アリアたんの暗殺に関わってたはずだからな」
「だからアリア姫の為って言ってたのか。若って意外と執念深い?」
「一度救えただけで終わりじゃねぇからな。本当の意味でアリアたんを救うには、危険分子の把握と、場合によっては排除をしなきゃならねぇ」
「何でそこまでするの?相手は異国の姫だよ?」
「世界一可愛い子が危険に晒されてる。それを助けたいと思うのがおかしいか?」
「、、、シンプルで分かりやすいね。まぁ僕は、若が進む道に着いていくだけだから」
「別に俺に合わせなくても、好きな事やって良いんだぞ?」
「やってるよ。一生若に着いていく。それが僕の好きな事だから」
ボーグが笑顔で言うので、「可愛いやつめ」とクロムも微笑んだ。
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