1-11. 身代わり同士の苦悩

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「遠慮、ですか?」 「岩波山の掟に縛られて身体を繋げてはいるみたいだけど、心が重なりあってないような、そんな感じがするのよ」  多嘉子は先月、夫婦で赤子を見せに仮店舗で仕事をしていた有弦のもとに顔を出していたのだという。結婚したばかりの彼に新婚生活はどうかと茶化せば「叔母上には関係ないことです」とむっつりした表情で一蹴されたのだと。  恨めしそうに言う多嘉子を見て、音寧も「有弦さまらしいですね……」と微苦笑する。 「そういえば、有弦さまはわたしに何も教えてくださらなかったです……お店に叔母夫婦がいらしたことも初耳で」 「でしょうね。あのときは西ヶ原の邸には来るなの一点張りだったから……まるで盗まれるのを警戒しているみたいで滑稽だったわ」 「盗まれる……?」 「たしか『時を味方につける』でしたっけ。もともと傑が彼女を見初めるきっかけになったのもその不思議な出来事があったから、みたいだし」
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